第75話

「感動したよ。勇気を貰った」


「……大げさな」


「盛ってない。事実だし」


「そう、ですか。それなら良かったですけど」






しかも似顔絵を描いたくらいだというのに、ハルナさんは勇気を貰ったと言ってくる。




──いったいなんの勇気?


お世辞とも取れるような感想の数々であったけれど、それでも彼はデタラメを言っているような目をしていなかった。


ミステリアスな雰囲気を保ったままで掴みどころがないものの、彼は確かに喜びをあらわにしていた。



「ていうか、これ、いつまで」


「ん?」




だけど、それとこれとは別問題だ。


私の頬に添えられている手に指をさして訴える。



ケロッとした顔でしらばっくれようったって、バレバレだっての。





「いろは、肌すべすべだなー」


「はぁっ?」


「うん。まるで女子高生みたい」


「正真正銘の女子高生ですって!」





一度ポカンとしたハルナさんは、直ぐにハハハ、と笑ってまたほっぺをつねってくる。


だ、だから近い。



どんな職業についているかもわからない男の人。


人を殺したことがあると自白してくる変な人。


挙句には私の心臓を食べたいだとか、不気味なことまで言ってきて……。




怪しすぎて普通なら席を外すレベルなのだろう。



でも、私はそうしない。


時間が経つたび、列車が先は先へと進むたび、景色が移りゆくたびに、かえって私の心はハルナさんを受け入れる。



「…ほんと、夢みたいに、嬉しいよ」



──……この匂いを知っているようで。

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