第74話
ガタンゴトン。
隣が空席になることが物寂しく思うのは何故だろう。たかが数十分前に知り合ったばかりの人たちだというのに、私はあの人たちにすっかり溶け込んでいた。
「瞳に色がついたね」
──ううん。
思えば、この人もだ。
この"東武日光行き"の電車に乗り込んだ時からずっとそう。
みんながみんな、私の中に入り込んでくる。
「うん、最初の頃よりもずっと色がついてる」
「……はい?」
「いろはっていう人間の色」
「はぁ…って、っ、みゅっ」
しばらく無口になっていたハルナさんは、ニッと口角を上げると、あろうことか身を乗り出して私の頬を摘んで引っ張ってきた。
ち、近い!
痛い、でとなく。
なんだ急に、でもなく。
最初に感じたのは羞恥心。
爽やかな柔軟剤の香りが鼻先を掠め、丸眼鏡と降りている前髪の隙間に確かに存在する綺麗な瞳が私を捉えている。
お子ちゃまを弄んでいるのかと思いきや、眉を下げ、あまりに柔らかく笑うのだから胸が鳴ってしまった。
「……嬉しかった」
「え?」
なんでこんな見ず知らずの男の人にときめいてしまっているんだ。
未だ嘗てないことに自分でも混乱していたのだけれど、小さく呟くハルナさんに私の意識は釘付けになった。
「俺の絵を描いてくれて」
「あ、あぁ…そのことなら、」
「感動した。本当にありがとう」
ハルナさんは摘んでいた指を解き、そのままの流れで私の頬に優しく添えてきた。
なんだろう、この目は。
ゆらゆらと黒目を揺らして、私をどんな風に見ているの…?
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