第71話

物憂げに外を眺めている様子が繊細に描かれている絵を、彼は黙って見つめている。





「…あの、」





ちゃらんぽらんなハルナさんはいなかった。


瞳を静かに下げている彼は、寂寞と口を閉ざす。





本当の彼はどっちなのだろう。


いつの間にか彼に関心を向けている自分に驚いて。





「ほんと、うまいよね」




ポツリ、言葉を漏らしたハルナさんは火が消えたように微笑む。




「俺を描いてくれたんだ…」


「あ、はい…なんかこう指が自然と」


「そう、」



なんて言ったらいいんだろう。


嬉しさと悲しさがごちゃ混ぜになった顔をしているハルナさんに、うまく振る舞えない。






「ばぁちゃんも見て!おねーちゃんほんとじょうずだよ!」



予想外の反応にタジタジになっていると、ミユちゃんは今度は老婦人にスケッチブックを押し付けている。


ああ、なけなしの模写が絵画の大先輩のお目に触れてしまう。


おこがましいし、恥ずかしいし、心の中でどんな評価がされるのか内心ドキドキした。






けど、






「いい絵、だねぇ…っ、」




──彼女は、スケッチブックを受け取って、息を殺すように泣いていたのだ。

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