第66話

両親の笑顔が見たくて絵を描きたいと思ったけれど、それはあまりに漠然とした思いに過ぎなかった。


それに気づいたのは、ちょうど私がミユちゃんくらいの歳の頃。



具体的にどんなことをすれば素敵な絵を描ける人間になれるのか、なんてことも考えていなかった私は、ずっと煮え切らなかった。




だから、それこそクラスの友達には馬鹿にされた。



たいして上手じゃないのに、こんなことをし続けている私が不思議でならなかったんだ。


面白くない子。

付き合いの悪い子。

なにを考えているのか分からない子。



ミユちゃんのように休み時間もずっとお絵かきをしていた私は、クラスの女の子たちからちょっと浮いていたかもしれない。


キャッキャと頬を綻ばせて外遊びしに教室を出ていく輪の中に私はいなかったし、もちろん誘われもしなかった。




ポツン、と教室で独りぼっちになることもあったけど、私は少しでも早く絵がうまくなりたくて。

必死に働いてくれている両親のために、私もなにかをしてあげたかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る