第65話

鉛筆を手に取ると、不思議な気持ちになった。



久々に握った──みたいな。


あんなに力を入れていたはずのに、ここしばらくはなんのやる気も起きなくて、ずいぶんと握っていなかったように思える。




何を描こうかと思った時、ふと正面で頬杖をついているハルナさんが目に入った。


ぼんやりと田んぼ風景を眺めているだけの彼とは依然視線が合わない。




その目には何が映っているのだろう。


何を思っているのだろう。





……変な、人。





──なーんとなくこの人をモデルにしようと思っただけのつもりが、どういうわけか自然と指が進んでゆく。


サラサラと鉛筆を滑らせながら私は、小、中学生の頃を思い出していた。

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