第67話

母が過労で倒れると、はやく上手になって元気づけてやらないとと強く思うようになった。


けれど、焦る気持ちに反して技術は全然ついてこない。




やりたいこと、夢があったとしても、努力した分だけ報われるとは限らない現実。


誰一人の力にもなれないのかもしれない、と唇を噛んでいた頃に、再びクラスの女の子たちが私の席のまわりに集まってきた。




「下手っぴ〜」


「いろはちゃん変なの~」


「こんなの描いてなにが楽しいのぉ?」



奇妙なものを見るような目だった。


そう言って口角をあげると私が描いていた絵を取り上げる彼女たちに「やめて」と身を乗り出すが、小馬鹿にしたまま返してはくれなかった。





確かに、上手ではなかったけど、みんなと遊ばずに一人で絵を描いていることはそんなにも虐げられるに値するものなのだろうか。



なんでもいいじゃん。

あなたたちに迷惑かけてないじゃん。

放っておいて。




家で寝込んでいるお母さんに、出来上がった作品を見せてあげたかった。


きっと笑顔になってくれる。「ありがとう元気なったよ」って


でも、こんなものじゃ足りない。こんな粗末な絵では、本当の意味でお母さんを励ましきれない。




見た人の人生を大きく変えるほどの感動を与えられるようになりたい。


明日への活力となる、生きようと強く思えるような、そんな絵が描きたいのに。





「あははっ!いろはちゃんおっかし~」



——だから、さ。



私、なにか彼女たちに迷惑をかけたかな?って泣きそうになっていた時、教室にあの子が割り入ってきた。

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