第62話

そっか。私と一緒だったんだね。



そう思ったら胸が温かくなった。



好きなことをずっとしていられたら楽だけど、それだけでは満足のいくものが描けないことを本当はミユちゃんはよく分かっている。




「じゃあおばあちゃんが感動する絵ってどんなのだろうね」


「え…?うん…と」


「人を感動させたり笑顔にさせたりするにはさ、自分もたっくさんのことを経験していないといけないなって、思わない?」


「…んん、?」


「んーじゃあ、たとえば、おばあちゃんが海の向こうのアメリカの風景絵がみたいよ〜って言ったとするね? ちなみにミユちゃんはアメリカ、行ったことある?」


「ないよ、ミユ、飛行機怖い」


「うんうん、それじゃあ、ミユちゃんは行ったこともないアメリカの風景をとっても綺麗に描く方ができる?」


「………描けないよ、そんなの。見たことないし」


「そうだね。きっとすごーく綺麗に描けるのは、実際に飛行機にのって、アメリカに行ったことがある人なんだよ。つまりミユちゃんがおばあちゃんにアメリカの風景を伝えたいって思ったら、苦手な飛行機を克服して、自分の目で美しさを感じてくる必要があるっていうこと」




すっかり忘れていたけれど、私はずっとその気持ちを大事にして描いてきていた。


自分だけが満足できる絵はそれまでで、結局、誰かに見てほしいから絵描きは絵を描いている。



私は、自分が描いた絵を見て、


誰かが涙してくれた時の感動を、たぶん、知っている。




「偉そうに言えないけどさ、だから学びは必要なんだよ」


「…」


「もし、ミユちゃんが本当の絵描きになりたいのなら、もっともっとたくさんのことを知るべきだと思うよ」


「…うん」


「今は上手くいかないかもしれないけど、焦らないでゆっくりやり続ければいいんじゃないかな。諦めないでやり抜くことが大事なんだから」


「…うん」


「もちろん、心が弱くなって、くじけてしまいそうになる時もあると思う。人間誰しも完璧にできてないから」


「……うん」





そこで乗り越えられるかどうか。


私は果たして、誰かにこれを言えるほど強くいられているのだろうか──。





「そんな時は笑顔を見たい人、貢献したい人のことを考えるの。するとね?不思議なことに勇気が湧くんだよ」


「…勇気」


「そうだよ。心が強くなる。どんな失敗をしたって、へっちゃらになる。そうすればミユちゃんもすぐに大人になれるよ。いい絵が描ける、魅力的な女の人に」

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