第60話

「上手なの?」


「え、ああ、上手…なのかは分からないけれど、小さい頃からよく描いてるよ」




興奮ぎみに私を見上げてくるミユちゃんに、歯切れの悪い返答をする私。


すると、同時に感じるのはハルナさんからの視線だった。


かと思えばそれはすぐにまた外へと向けられてしまったけれど。





「じゃあミユのばぁちゃんと一緒だね!」


「…え?」


「ミユのばぁちゃんもね、ずっと絵を描いてるんだ。だから教えてもらってるんだけど、なかなか上手くいかないんだ」


「そうなんだ」






ニシシと八重歯を見せるミユちゃんに、老婦人は「…たいしたものじゃねぇべ」と、やや謙遜ぎみに笑っている。


きっと素敵な絵を描くのだろうな…。


こんなに朗らかに笑う人が描く絵だもん。色彩豊かで心温まるものを生み出すのだろう。




「そのせいでお友達には下手っぴだって馬鹿にされるし」


「…そっか」


「少しの時間でもいいから描いていたいんだ。今はまだ下手だけど、それなのになんでだか楽しい。もっと上手になりたい」


「うん」


「だから、学校行く時間はいらないって思っちゃいけないの…?私を笑ってくる子たちがいるところにいる必要ないじゃん」





眉を下げているミユちゃんは、小さな声でポツリポツリと本音を零す。





「やりたいことをただやっていれば、たしかに楽しいよね」

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