第58話

ガタンゴトン……。





私が言いたかったことを代弁したのはハルナさんだ。




ミユちゃんの言葉に答えたのは、彼女の向かいに座っている老婦人でも、私でもない。


会話なんて聞いてないと決め込んでいた、目の前のアンニュイな眼鏡男だった。



「俺も、凄く弱いんだ」


「おにーちゃんも?」


「そうだよ。何も守れなかった。それこそ、取り返しのつかないこともした」


「……取り返しのつかない、こと?」


「うん。それでも縋り付きたくて、祈りを乞うてみたり、悪あがきもしてみたり。でも…先なんて見えなかった。馬鹿みたいに果てしない旅をし続けてる」





ポツリ、ポツリと、口を開く。


老婦人もその雰囲気を察してか、物悲しげな瞳を彼に落としているだけで何も言わなかった。




「いつか終わるのかな。いつか報われるのかな。いつになったら心から笑えるようになるのかなって。いつも不安まみれだった」


「……ミユだったら、嫌になっちゃう」


「ハハ、うん。もちろん何度もそう思ったかも。結局何もできなかった。俺はなにも……あげられなかったんだ」





声のトーンを下げたハルナさんは寂寥な瞳を宿す。笑っているけれど、泣いているようだった。

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