第57話

「それは…良かったよ。本当に……本当にねえ」





目尻にクッシャクシャな皺を作って微笑んでくる。




喉の奥からやっと絞り出したかのような声だった。




心のこもった言葉だということに気づかないわけではない。


そんなに喜ばれるようなことを言ったかな…?







ハルナさんを見ても、彼はぼんやりと車窓を眺めているだけだった。




「でも…、」





すると、今度はミユちゃんが言いづらそうにして唇を二、三度噛み締めた。




「ミユそんなに強くないもん」


「…ミユ、」


「ばぁちゃんみたいに、根性ないもん」




顔を上げてはっきり伝えるミユちゃんは、きっと、老婦人が言ったことなんて本当は分かってたのかもしれない。






「馬鹿にしてくるみんなのことだってものすっごく怖いし、嫌な気持ちになるし、勉強するよりもお絵かきしてた方がずっと楽しいもん……がんばれないよぉ」






──そう。


分かる……と、酷く共感した。





「人はものすごく…弱い生きものだよね」

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