第55話
しかも夫婦って…、どうなったらそうなるんだ。そもそも私はそんな歳じゃないのに。
カップルだったらまだしも、いきなりぶっ飛んで夫婦になっている。
本当に冗談じゃない。
「だよねだよねぇ…!はぁ…、いいなぁ!漫画で読んだシーンみたいで、ドキドキしちゃったよぉ!」
「……ドキドキ要素ないからね?」
「ありがとう。こうでもしなきゃ、彼女に俺の気持ちが伝わらないんだよ」
「はぁ?!」
「えええ!いいなぁ!いいなぁ!ミユもはやく大人になりたいなぁ!」
ミユちゃんは、スケッチブックを肘で挟んで両手を頬に添えると、ほんのり赤らめて恍惚とさせている。
おいおいおい、何を考えている…。
人殺したことがある、だとか、
ストーカーだとか、
意味分からないことばかり言ってくる男と、まさか私がそういう関係にあると勘違いされるのは、いろいろ厳しいものがあった。
「大人になるためには、尚更学校に行かねえといけねえべよ?」
何としても誤解を解きたくてあたふたしていると、ハルナさんの隣に座っている老婦人がもっともらしいことをミユちゃんへと投げかけた。
今日学校をサボっている私としては、胸がちくりとするかな。
すると、頬を緩めていたミユちゃんだったけど、一転して顔を強張らせる。
「学校は、やだよ…」
そう漏らして。
「学ぶことは大人になるために必要なことだべ?」
「そんなことしなくてもなれるもん」
「それじゃあ本当の意味の"大人"にはなれねかんべ」
大人という概念は酷く曖昧だ。
私もよく分からない。
確かに、やりたいことを好きなだけやっている人生の方が楽だ。嫌なものが見られない人生の方が、伸び伸びできる。
自分から苦しむ道は選びたくないもんね。たぶん、わたしもミユちゃんみたいに考えてしまうなあ。
「怖くて苦しいことに逃げずに向き合っから、それを乗り越えた分だけ大人になれるのと違うべ?」
"東武日光行き"の電車が揺れる。
いつのまにかハルナさんは黙ったまま、視線を私へと向けていた。
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