第47話

「これは本当」なんて口にして、私の目の上にかかっている髪を、繊細な手つきで払ってくれるハルナさん。


まるで子供をあやしているみたいに優しい瞳を向けてくるのだから、また喉の奥が鳴ってしまった。






──全部知ってる?どういうこと?


不可解すぎる言葉に表情を曇らせる私に、ハルナさんは何処となく物儚げに微笑んだ。




「いろはのことは、俺が全部知ってる」


「……そんなの、信じられるわけ、」


「じゃあ今から一つ証明してあげようか」




だって、何の信憑性もない発言だった。はいそうですかって、簡単に信じられるわけない。


「そうだなー」と辺りを見回しているハルナさんは、一点、私の手帳に視線を落とす。





「それ」


「え?」


「4月のある日の出来事を事細かく言い当てましょう」





────4月。2ヶ月前の出来事。




2ヶ月前だとしても、彼に関わった記憶などは一つもない。


だからにわかに疑わしかった。



それなのに、ハルナさんは余裕綽々げな顔で頬杖をつきながら見上げてくる。





「2014年4月12日。その日の朝ごはんは、いろはの大好物のベーコンエッグトーストだった。出勤する親を見送ったあと、気分が上がったので近所にあるフラワーパークでデッサンをする。どの花にしようか目移りしてしまって描きはじめるまでに1時間かかってしまった」


「……っ」


「…どう?こんな感じだったかな。確認してみて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る