第48話
なんの違和感もなくスラスラと口を開いていったハルナさんに目を丸くする。
慌てて手帳の内容を確認してさらに息を呑んでしまった。
──語り方こそは違うものの、内容は九割がた一致していたからだ。
私はその日、母にベーコンエッグトーストを作ってもらっていた。
休日であっても朝ごはんをしっかり作ってくれる彼女を尊敬していたし、なにより大好物だったために日記に書いてしまったんだと思う。
親の出勤を見送ると、スケッチブックを持って近くのフラワーパークに……。
「なんで……」
さきほどチラッと覗き見されたけれど、流石にあの時間だけじゃこんなに細かく記憶することは困難だ。
「どう?」と再度首を傾げてくるハルナさんに生唾を呑んでしまった。
「だから言っただろ?いろはのことなら何でも知ってるって」
「……何者…?」
「さあ?なんだろうね?」
私のことを一方的に何だって知ってる男の人。戯れ言のようにも、真面目なことのようにも聞こえなくない意味深な顔つき。
決して健康的ではない真っ白な肌と、しなやかな手足がミステリアスな雰囲気をより引き立てる。
────ガタンゴトン。
電車が、揺れていた。
「ハハハ、そんなにビビるなよ」
「いや、ビビりますよ!」
「嘘かもしれない」
「本当かもしれないじゃないですか! 情報屋? 未来からの刺客? ストーカー? 知らない人がこんなに私のことを熟知してるわけない!」
「おー、俺、なんだかカッコイイ」
「んな呑気な!」
アンニュイな雰囲気に戻ったハルナさんは、チョイッとチョコレートの袋に指を忍ばせると、アーモンドチョコを口の中へと放り投げる。
ボリボリボリ…。
ああ、またすぐ噛み砕いて……アーモンドチョコの良さを分かってない男だ。
じゃなくて!
「真面目に答え……、」
こんなに後味悪いままボックス席をともになどしたくないんですけど、と唇を強く結んで動きを止める。
ハルナさんは、先ほどまでのヘラヘラした様子とは一転して、泡沫のように窓の外を眺めていたからだ。
移りゆく景色に。
深く思いを、馳せているように。
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