第44話
──幼少期から小学校低学年の頃の私は、自分の足で立てるように、ただ強くなりたいと思っていた。
「ユキねぇ、この前パパとママとサイパン行ったのぉ!」
「えぇ〜?サイパンってなぁに〜?」
「海の向こうのがいこくの島だって、パパが言ってた。飛行機びゅ〜んして楽しかったぁ!」
「えええ?!飛行機乗ったのぉ?!ユキちゃんすんごぉい!」
小学1年生。
夏休み明けというものは、まず家族旅行の自慢大会からはじまる。
始業式が終わって下校の時間になると、クラスのお友だちが集まって話しているのを、私は居座るだけ居座ってただ聞いていた。
「いろはちゃんはぁ?」
──ていうか、今思うとユキちゃんは誰だったかな。
この名前だけは記憶に妙に焼き付いていたんだけれど、よく彼女は休暇は何処かに遊びに行ったのかを私に聞いて来ることがあった。
「にっこう!」
「にっこぉ〜?それ何処ぉ?」
「とちぎ!」
「ええー、なぁんだ。ユキの方がすごーい」
まるでショボいと思っていることが丸分かりな反応だった。
何処に行くのかがそんなに大事なのか。
当時の私はその時からこんなことを考えていた。
少しだけムッとしながら、ランドセルを背負って"バイバイ"をする。
けれど、家に帰っても父も母もいなかった。
完全に寂しさがなかったかといえば嘘になるけれど、私は分かっていたのだ。
父も母も私のために働いてくれていることを知っていたから、そう思えばへっちゃらだった。
絵の勉強に没頭することを覚えると、私はさらに無敵になる。
暇な時間をなにかで埋められないか、とアイデアをくれたのは別の人だったけれど。
夢中になっていたら父と母が帰宅している、なんてことは多々あったし。
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