第41話
「おっと、もう着いてしまったのか」
プシュー…。
扉が開くとおじさんはもう一度だけ涙を拭ってから、ようやく腰を上げる。
正直涙のことが気がかりだったけど、ここで降りてしまうらしい。
やはり私が余計なことを言ってしまったのかもしれないと思っていた途中だったために、こんなタイミングで別れてしまうのは後味が悪いような気がするけど。
「きっと、今回の旅は君にとってとっても大事な旅になる」
「…え?」
「ゆっくりでいいから、思い出してごらん。そうしたらきっと、なにかが見つかる」
「それでは」と、会釈をして背を向けていくおじさん。
白髪がやっぱり目立っていた。
目元のシワからも苦労が伝わる。
猫背な身体を見て、なんだか居ても立っても居られなかった。
「あっ、あのっ…!」
「…?」
「ありがとうございましたっ!短い時間でしたけれど、あなたに出会えてよかったです!どうかお元気で!」
思わず立ち上がって大きな声を出してしまった。
それに気づいたのは、その内容を口に出した数秒後のこと。
注目する乗客。
一瞬だけキョトンとしたおじさんは、ほどなくして嬉しそうに、切なそうに、様々な感情をごちゃ混ぜにしたように破顔した。
「こちらこそ。また、何処かで」
おじさんが東武金崎駅のホームに降り立つと、電車の扉が閉まった。
私はどういうわけか食い入るように彼を眺めていた。
しばらくして動き出す電車。
再び腰を下ろした私は、空席になった私の隣を見つめていた。
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