第40話

綺麗な涙だった。


気がついたら涙が零れ落ちていた、という表現の仕方がしっくりくるくらいに。




何か癇に触るようなことを言ってしまったかもしれない。


慌てふためいてソワソワするけれど、彼は「…ちょっと感動してしまってね」とそれだけを添えてハンカチで涙を拭った。



「よく話してくれた」


「いいえ、こちらこそペラペラとすいませんでした」


「いいや、ほんとうによく……話してくれたね」




移りゆく景色を眺めていたハルナさんは、そんな私たちを無言で眺めていた。




このボックス席だけ他とは異質であった。


旅に思いを馳せて観光ブックを開いている乗客たちの中で、ここだけが唯一涙で染まる。







『東武金崎〜、東武金崎〜』




しっとりと泣いているおじさんにどう応対したらいいか困惑していると、"合戦場かっせんば駅"、"家中いえなか駅"に続き、電車が停車した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る