第23話
「……え、あ……ごめ、」
「あの」
「ごめん、すぐ止めるから」
チョコの袋を右手に持ったまま、もう片方の左手が宙ぶらりんになってしまう。
ハルナさんは本当に自然に涙を流していた。
目を開けたまま、すう、と落ちてくる雫。
現に彼は、自分が泣いていることに少し経ってから気づいていた。
「ど、どうしたんですか、いきなり」
「……ね。どうしたんだろうね、」
コロコロと笑うハルナさんは「さすがにこれはやばいわ」と苦笑する。
そして、ミステリアスな雰囲気を引き立てている丸眼鏡を外した。
「いろは、きみは俺を知らないかもしれないけど、俺はきみのことをずっと見ているって覚えてて」
「ずっと…?」
吸い込まれるほどに綺麗な瞳が、直接私と交わりあった。
太陽の光を目一杯に吸収するそれを歪ませることも細めることもなく、ただ自然に涙を流して。
「俺はこの日、このボックス席に、きみに会うために乗車したんだ」
私の"旅"は始まりを告げた。
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