第19話
「確かにいいよね、日光って」
「本当にそう思ってます?」
「思ってる思ってる。そういえば、よく思い立ったように日光まで走りにいってる奴らとかいるけど、県南住みなのによくガソリンもつよな」
「車?」
「そうそう。あの辺は運転好きにとっては夢の楽園なんだと。峠道がいいらしい。俺運転免許持ってないし、よく分かんねーけど」
「奥日光とか結構な標高ありますしね」
「あー奥日光も、懐かしいな…」
不覚にも、随分と打ち解けてきた話し方をしてしまった。
栃木駅を発車すると再び家々が窓の外を流れてゆく。
ハルナさんはそんな風景を眺めながら何かを考えているようだった。
「ずっと、行けなかったから」
そして、ぽつりとなにかを口にした。
「え?」
「……ん?」
「何か言いました?」
「いや?」
「そうですか」
「おっ、ていうかお菓子! 食べよ食べよ」
「ねえ、私とあなたは友達ですか……」
「ハハ、確かに友達ではないね」
"では"ない……?
ハルナさんの独特な言い回しにいちいち反応するのは疲れてしまった。
「とかいいながら手が伸びてます」
本当に自由な人だ。
なんで知らない人と一緒にお菓子を食べる羽目になっているんだ。
ていうかそれ、私のだし。
「ほれいろは、あーん」
勝手に袋からチョコを取り出したハルナさんは、私の口元へそれを持ってくるではないか。
そこになんの躊躇もなく、距離感がすごく近い。
前屈みになるハルナさんの鎖骨が見える。
いや、少しもドキリとなんてしてない。
いい匂いがしてきただなんて、少しも思ってないんだから。
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