第18話
「あ、このお土産めちゃくちゃウマイんだよなー。懐かしい」
「話コロコロ変わりますね」
「ここも写真撮りまくったなー。俺写真ヘタクソなのに」
「ていうかそれ私のだし。見てたのに取られた…」
ヒョイ、と観光マップを取り上げたハルナさんは、引き続き私のパーソナルスペースをぐりぐり破ってくる。
いつの間にかこの変な男の人の存在に慣れているのが恐ろしいと思いつつ、一面の田んぼ風景を眺める。
隣駅である"栃木駅"に到着すると、チラホラと降車する人の姿があった。
階段を降りてゆくその姿を私はただぼんやりと見る。
プシュー…、扉が閉まる。
再び動き出す電車。
ただ運ばれているだけのように見えて、この乗り物は確実に何処かへ導いている。
線路の先に何があるのだろう。
日常とは離れた世界がある。
変化のない日々は時間が止まっているのと一緒で、人はそこから脱したくて旅をする。
なんのやる気もなくなってしまった高校生の私は、こうして学校をサボって、なにかを求めに電車に乗るのだ。
「ねえ、なんで日光なの?」
ぼんやりしていたら、ハルナさんが声をかけてきた。
「え?」
「だって、高校生がサボるんだったらもっと違うところもあったでしょ。下りじゃなくて上りなら、東京にも1時間ちょいで行けるよ」
すると、観光マップから顔を上げたハルナさんは素朴な疑問をぶつけてくる。
確かに、栃木県を通る東武日光線は、下りは東武日光方面に、上りは東京方面へ向かう路線である。
浅草~東武日光間を走る快速電車があるくらいだもん。栃木市からは東京なんてスイスイのスーイで行けてしまう。
特急料金不要の列車のなかでは、停車駅がもっとも少ないことで有名だしね。
憧れの東京にショッピングにでも行けばよいだろうに、何故北へ向かうのかと。
要はそういうことで。
「単純に好きだから、ですよ」
「へえ。好きなんだ、日光」
「はい。無性に惹かれるというか…ほら、栃木の観光名所だし、神秘的で。嫌いな人はいないんじゃないですか?」
「ふーん。どういうところが好きなの?」
「………ていうか、なんでそこまであなたに教えなきゃなんないんですか」
ハルナさんの瞳はまっすぐ私に向けられている。
しばらくしてから「ケチー」と唇を尖らせたけれど、私はさっきから薄々と気づいていた。
ヘラヘラしてそうに思えるが、案外ハルナさんは私のことをちゃんと見ている。
観光マップをやっと返してくれた。
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