第12話

丸眼鏡に、もっさりとまとまっているくせっ毛の黒髪。


襟元がくたびれたグレーTシャツからは鎖骨が見え、スタイリッシュに履かれているジーンズは華奢な身体を連想させる。





──間違いない。この人、私に話しかけている。


どことなくアンニュイなその人は頬杖をつきながら、確かに私のことを見つめてきていたのだ。







「え……っと、」





誰、だろう。


知らない。


知っている人かなと思ったんだけど、ぜんぜん知らない。





「やっと見てくれた」


「はい?」


「おはよう。いい天気だね」


「……?」




なんだ、この人。


なんでこんなに話しかけてくるの。


私この人のこと……やっぱり知らないな。





「いやー、むしろ暑いくらいでびびった」


「えっと、」


「やっぱり外の空気は気持ちいいな」




少し開いている窓が風を作る。


この男性は目を細めて穏やかに外の景色を眺めているけど、こっちとしては面識のない人に急に親密げに声をかけられて困惑している。




「あ……あの、」




こんな人っているものなの?


明らかに怪しすぎて警戒する。




「どちらさまでしょう、か」


「どちらさまって?」


「あなたです。私、あなたと……知り合いでしたっけ」

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