第10話

うん、やっぱりいい。


気分が幾分いい。



窓の外。


住宅街を通り過ぎ、一面の田んぼを眺めていると市のシンボルである太平山がそびえ立っていた。



何年も、


何十年も、


何百年も、


何千年もそこに存在しているお山は、東武日光線の電車が颯爽と田んぼの真ん中を駆け抜けてゆくのを、数えきれないほど見て来たのだろう。


移りゆく町の景色を眺めてから、観光マップを開くことにした。








………






ある程度読み始めて、ふぅー…と伸びをする。



普段は通学に使っている電車のはずなのに、乗車する目的が違うだけでなんだかまったく別の乗り物のように思えてしまうものだ。


本を読んで世界観に浸るのも非日常。


映画を見るのも、


ゲームをするのも、非日常。


日常の中に転がっている非日常はたくさんあるけれども、特に"旅"は人の胸を大きく弾ませる。






人が旅をすることをやめられないのはそういうことだ。


──感じたことのない気持ちに出会いたいから。







観光をするのなら、やっぱり東照宮とうしょうぐうは欠かせないよね、とさらにリュックを漁ろうとした時のことだった。







「──いろは」





何処からか、私の名前が呼ばれたのだ。

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