第87話

バンッ





「………………っ!?いらっしゃいませー」




喫茶店の中はオシャレなBGMが鳴り、静かな中、息を切らして中に入ってきた私に店中の人が注目した。






「……あれ、妃芽ちゃん?…………どうしたの?」



カウンター席に座っていたのは有栖川さん。ノートを開いてコーヒーを飲んでいるからきっと勉強をしていたみたい。






「やだ……ベタベタ。そんなに雨酷かったの?傘は?………………マスタータオル貸して。」






「あー、大変だ。すぐに持ってくるから」



マスターと呼ばれる人がすぐにタオルを持ってきてくれて、有栖川さんが私の頭を拭いてくれた。






「有栖川、何を騒いでんの?…………って……は?何してんだよ。」



呆れたような……でもよく知っている声にホッとして、本当はダメだけど走ってカウンターの中に入った。






そのまま胸に顔を埋め、ぎゅっと抱きつく。





「……え?…………何?…………どうしたんだよ。」





「うっ…………ふっ………………ヒック………うぅ…………」




ももちゃんに抱きつきて泣き始める私にももちゃ少し戸惑ったような声を出した。




「妃芽ちゃん、入ってきた時から様子おかしかったよ?…………っ」

有栖川さんは何かに気がついたように立ち上がるとすぐに走って、お店の外を確認した。






「…………大丈夫。…………誰もいない。」




その言葉に私はホッとして、力が抜けて崩れ落ちそうになり、ももちゃんがそんな私を支えてくれた。





カランカラン





お店の、扉が開く音が聞こえて私はビクッと体を震わせる。

「大丈夫だから。…………俺の友だち。」






「……え?……何?………………桃矢の彼女ー?」







「……ばか!………………ねぇ、外に変な人いなかった?」



有栖川さんがそう聞くと、ももちゃんの、お友達は少し考えて「あぁ!」と思い出したような声を上げた。






「なんか、夏なのに長袖長ズボンでマスクで顔を覆ってる暑そうな奴いたわ。」






絶対その人だ。

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