第25話 作品を通じて
日向君を避けてからおよそ一か月が経過した。
今日も早く帰って配信に逃げようとした所で、
「呱々原さん!」
突如必死な形相で彼が声をかけてきた。
そして、
「ほんっとにごめん!!!!!!!」
深々と土下座をする日向君。
「呱々原さんが気にしてるのがそこじゃないのは分かってるけど、でも、凄く失礼な事下から!」
「う、うぇっと。……」
話しかけてくれて嬉しい気持ち、それに対して失礼な事をしている罪悪感、また傷つきたくないって気持ちなど、色々な感情がごちゃまぜになる中、
「ご、ごめんなさい」
私はまた、走って逃げる選択をした。
すると、
「ち、ちょっと待って!」
走って追ってくる日向君。
そして、彼はすぐさま転んでしまった。
こういう時、どうすれば良いのか分からない。
立ち去るべきなのかな。
困惑している私をよそに彼が倒れながら言う。
「こ、これ! 受け取ってくれるだけで良いから」
日向君は、手に持ってる紙の束を渡してきた。
そのまま受け取ってしまう私。
「もうこれ以上は俺から話しかけないから! ただこれを受け取って欲しかっただけで。嫌ならそれも無理に読まなくて良いし! もうこれっきりにするから、じゃあ!」
そう言って日向君は走り去ってしまった。
彼の消えていく背中を呆然と見送ったあと、手に持っている紙に目を通す。
『友達になった女子が超人気美少女Vチューバーだった件』
それは日向君が書いたラブコメ作品だった。
■■■
ライトノベル新人賞.doc
『友達になった女子が超人気美少女Vチューバーだった件』
俺、朝日 茂(あさひ しげる)は、昔から目立つことに憧れていた。
戦隊モノのヒーローを見て思ったり、仲間を引きつれてる王道漫画の主人公を見てそう思ったり。
現実世界(リアル)では恥ずかしくてあまりそういった素を表には出せなかったけど、常に周囲の注目を浴びたい気持ちがあった。
だから、目立たずに普通に働いて死ぬような人生が凄く嫌で。
何かの分野で輝けないかって思って、スポーツとか、ゲームとか、イラストとか、いろんな事に挑戦しようとしたけど、全部一週間と続かなかった。
そんな最中高校生になって、毎日会社の愚痴を吐いて帰ってくる父親の姿に嫌気がさして、俺は次にラノべ作家になることを志した。
でも、結局何一つ続かなくて、気づけば高校二年生。
これからどうすれば良いんだろうって思ってた時に、彼女、心 夜空(こころ よぞら)さんは現れた。
◇◇◇
クラスのくじ引きで俺と図書委員になった心さん。
引っ込み思案で、他人との交流が極度に苦手な彼女だけど、何事にも一生懸命な姿を見て俺は尊敬していた。
俺はそんなに何かに一生懸命に取り組んだ事なんてなかったから。
一緒に業務をこなす中で、彼女から勇気を出して友達になろうって誘ってくれて、俺達は友達になった。
お互い陰キャオタクでアニメ談義なんかに花を咲かせていた俺達だけど、ある時彼女の凄い秘密を俺は知ってしまった。
彼女は俺が密かにネットで推している大人気Vチューバーだったのだ。
◇◇◇
俺は凄く驚いた。
彼女が大人気Vチューバーだって言うのもそうだけど、富も名声もある人が、こんなに素朴な考えの人だったんだなって。
彼女は決してそれを奢らず、ひけらかすこともなく、むしろいつも自分に自信がなくて、いつも誰かのために力になりたい、そんな事を考える人だった。
「何で心さんはVチューバーになったの?」
「……そ、それは」
そんな人が何でVチューバーになったのか知りたくて、俺は直接聞いてみたことがある。
彼女は口を開くと、『何もない自分を変えたいから』と静かに答えた。
そんな事ないのに。
普段の頑張ってる彼女の姿を見て俺はそう思っていた。
◇◇◇
彼女との付き合いが長くなって親睦を深める中で、俺は軽率な行いで彼女の好意を踏みにじり、酷く傷つけてしまった。
しばらく疎遠になっている中で、彼女の配信を覗いてみると、『私は誰からも必要とされてない』とか弱気な発言を沢山していた。
彼女は俺が深く傷つけた事に怒っていたわけではなく、役に立てなかった事を酷く悔やんでいる様子だった。
Vチューバー以外の価値がないとも言っていた。
そんな事ないのに。
俺は我慢できずに彼女に話しかけに行った。
「心さんはVチューバーじゃなくても、俺は凄い人だと思ってる!」
そして、俺は自分の思いのたけを彼女にぶつけた。
「最初に話しかけてくれた時、あれは孤独な自分を変えたくて、友達を作ろうって自分で行動したんだよね! 俺にはそんな勇気は出せなかった。Vチューバーになったのだってまぐれじゃない。普段の心さんを見てれば分かる。沢山失敗して試行錯誤してあそこまで登りつけたんだって。あきらめずに努力し続ける姿勢がすでに素晴らしいし! 図書委員だって一生懸命やって、責任か感じて一人で背負って、とにかく__」
俺は大きく息を吸い込んだ。
「君は自分が思ってる以上に百倍凄い人間なんだよ! 俺みたいなみっともない人間じゃない!」
■■■
そこからのヒロインの行動については日向君の小説に描写されていなかった。
物語は読者の想像に任せる形で完結している。
日向君は、小説を通して私に気持ちを伝えてくれたのだ。
この先の展開は決まっていない。
私次第、なのかもしれない。
私は__、
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