第24話 俺がやること
呱々原さんに行動で誠意を見せるためにはどうすればいいんだろう。
ベッドに仰向けに寝転がりながら、俺は彼女とのやり取りを思い出していた。
■■■
「ま、槙島君ってさ、……ど、どんな小説書いてるの?」
「え?」
二人で他愛もない雑談をしてる時に、呱々原さんがそう尋ねてきた。
俺の心臓が跳ねる。
呱々原さんをヒロインのモデルにしたラブコメを書いてます。
「ラ、ラブコメ、かな」
咄嗟にそれしか言えなかった。
「……そ、そうなんだ」
俺の話を聞いて、興味を持ってくれてる呱々原さん。
なんか話してて急に恥ずかしくなってきた。
だってラブコメって言っても恋愛経験ゼロの童貞だし、文章も稚拙だし、そもそも全然書けてないし。
「ぜ、全然大した奴じゃないからね! 人に見せられるクオリティじゃないし」
予防線を張る俺に、呱々原さんは首を横に振る。
「そ、そんな事ないよ」
「ううん! 本当にそんな感じだよ! 呱々原さん見たらびっくりするから!」
こんなやり取りを数回繰り返したところで、呱々原さんが言う。
「も、もし槙島君の文章が、ひ、酷くても、……さ、最初は誰だって下手からスタートするから。ち、挑戦することが、す、凄いと思う」
下を向きながらモジモジする呱々原さん。
最初は下手、か。
今は大人気Vチューバーとして結果を出してる呱々原さんも、そんな時期があったんだろうか。
少し重みのある言葉に聞こえる。
彼女は言葉を続ける。
「だ、だから、わ、私は応援するし、そ、そのうち、み、みたい、です」
■■■
「俺の作品を見たいって言ってくれたんだっけ」
呱々原さんとの以前のやり取りを思い出した俺。
思えば、大して何もしてない俺の夢を応援してくれて、あまつさえ読みたいって言ってくれた人は、彼女が初めてだったな。
口八丁で何もせずにここまで来てしまった自分が酷く情けなくなった。
相手の好意を踏みにじるクズで、大層な夢を語るけど有言実行しない口先だけの男。
胸が締め付けられる。
これが今の俺の現実だってようやく分かった。
流石に格好悪過ぎる。
どの道今回のいざこざがなくても、呱々原さん俺から離れて行った気がする。
っていうか誰が相手でも、何なら俺が女子でもこんな奴相手にしないよな。
小手先のやり取りで仲直りを考えてた自分が恥ずかしくて、俺はベッドの上で悶える。
せめて、小説は書ききろうと思った。
関係が修復できるかは置いといて、それがまず呱々原さんへの誠意。
あとこのままじゃあまりにもダサすぎるし。
問題は内容なんだけど。
そう思ってしばし考えて、俺はある結論に至った。
小説を通して気持ちを伝えられないだろうか。
本人に読んでもらえるかは分からないけど、主人公とヒロインのモデルは俺と呱々原さんなのだ。
主人公を通して、俺から呱々原さんへの気持ちを作品に込める。
正直、恥ずかしい気持ちはあるけど、既にそれ以上に俺は恥ずかしい人間なので我慢する。
むしろ失うものなんて何もないのに、何をくだらないプライドなんて守ろうとしてるのか。
俺は勢いよくベッドから上体を起こした。
やる事が固まったら何だかやる気が出てきた。
当初の応募予定のラノベの新人賞は、今からだと、残り一か月くらいだっけ。
十万文字を三十日で割ると、一日あたり三千三百文字。
「稚拙な文章とか言ってられないよな」
俺は気合を入れてパソコンを開くと、そのままドキュメントを開いて文章を書き始めた。
■■■
「……まだこれだけしかやってないのか」
本編を書いて一時間。
頭を捻って書いた文字数は二百五十文字程度。
既に疲労感と睡魔が襲っている。
今日は色々考えたから、きっとその分疲れが出てるんだ。
「……明日から頑張ろう」
そう思ってその日に寝てしまった。
「ダメだって!!」
翌朝になってベッドに頭を打ち付ける。
また心の弱さに負けてしまった。あれだけ頑張って書くって決意したのに。
そう考えても今日は学校で、すぐに出ないといけない時間だった。
どうしよう。
授業中に俺は頭を抱える。
一日二百五十文字で終わるわけないだろ!!
でも書ける時間は帰ってからしかないし。
だって学校じゃ人の目が合って恥ずかしくて書けない。
通学中だって、人混みの中執筆するのは体力がいるし。
そんなことを考えて、数日間で夜にだけ執筆してる内に気づく。
何とか一日五百文字書けるようになったけど、当たり前だけどそれだけじゃ圧倒的に足りない。
このまま達成できるのかという極度の不安と焦りが襲ってくる。
やっぱりいつも通り俺は何も成し遂げられないのか。
ストレスが溜まって現実逃避でコンビニで沢山買い食いをしたり、寝たり。
更に日数が経過した所で、徐々に一周回って怒りが沸いてきた。
どうせ周りの連中との接点なんてないだろ。
見られた所で今更変な陰キャ扱いなのは変わらないし。
ここにいる何人が俺の人生に今後関わるんだよ。
ほとんどいないだろ。
それよりここでひよって人生を無駄にすることだけはしたくない。
そう思ってからは、わき目も降らずに書き続けた。
行き帰り通学中の電車や、歩きスマホ、学校の休み時間、昼食の時間も使って。
周囲の目線なんてどうでもいい。
作品の完成度も二の次だ。
途中自分が何を書いてるのかも分からなくても。
他の作品も参考にして、パクったって良い。
とにかく書いて、書いて、書いて、書いて。
それでも、
「まだ三万文字かよ!!」
時間とともに頭に登った血が降りて冷静になる。
いや、良い。これだけ書いた事なんてない。
進め。
今やってることが正しいのか分からない。間違ってるかもしれない。
それでもいいと思った。
今確実に言えるのは、やらなかったら百億パーセント後悔するって事だけだ。
とにかく書いた。
暇さえ見つければ書いて、それでも捻出出来なければ、学校を仮病で休んだりして書いた。
その日体が動かなくてボロボロだなって思っても書く。
最悪死んでも良い。
そうして、一か月が経過した所で、
「……で、出来た」
俺は、ラブコメ作品を一冊書き上げることが出来た。
結論十万文字の尺では書ききれなかった。
でも、公募条件はドキュメントソフトのページ数だったらしく、文字数換算すると意外にも七万五千文字程度でも十分に足りた。
アウトかセーフか、もはや自分でも何してるか分からないけど、書いた原稿を印刷して、俺は学校へとそれを持って行った。
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