第26話 お互いの気持ち

 呱々原さんに印刷した小説を渡してから数日が経過した。


 彼女への気持ちを赤裸々に書いた小説を見せた事に恥ずかしさや後悔が押し寄せている中、彼女から〇INEが届いた。


呱々原『明日の放課後二人きりになれないですか?』


 緊張しながら俺は承諾して翌日を迎える。


 放課後、滅多に来ない学校の屋上にて、呱々原さんと対面した。


 こうして向かい合うだけで久しぶりな気がする。


 呱々原さんは何を話すのだろう。


 それが分からないうちは、この状況を素直に喜ぶことも出来ない。


 そんなことを考えていると、呱々原さんが口を開いた。


「し、正直、何を話せばいいのか。感情も整理出来ないまま、ここに来たの」


 俯きながら呟くようにそう言う呱々原さん。


「そうなんだね」


 そう返事をすることしか出来ない。


「……」

「……」


 日が沈んで辺りが徐々に夕闇に近づいてくる。


 部活動の掛け声や風の音だけが耳に入ってくる。


「……し、小説読んだよ」

「そ、そっか。あ、ありがとう」

「うん」

「わ、私は、日向君が思ってるような、人間じゃないよ」

「え?」

「誰かのためにとか、一生懸命とか、そんなんじゃなくて。本当はただ、私の事を見て欲しかっただけで、必要とされたかっただけで。Vチューバーも凄いって言ってくれたけど、そ、それだって本当は現実逃避の延長でしかなかったの。でもそれも、皆Vチューバーって皮を被った私の事が好きなだけで。だ、誰も本当の私を必要としてなくて」

「……」

「わ、私自身自分の事しか考えてない人間で、だから、その」


 そこまで言って言葉を詰まらせる呱々原さん。


「あのさ、呱々原さん」

「……?」


 ここで今一度明確に、自分の気持ちを伝えようと思った。

 緊張はいつの間にか何処かへと行ってしまっていた。


「正直言うとさ、俺呱々原さんに嫉妬してたんだ」

「!?」


 小説が書けない理由を周囲のせいにして他人を拒絶していた俺。

 友達が出来ない理由も小説のせいにして。


 行動を起こさないのは全部自分のせいなのに、いつも他人のせいにしていた。


 でも本当は、自分から変わる勇気が出ないから常に閉じこもってたんだ。

 

 そんな時に現れたのが呱々原さんだった。


「チヤホヤされたくて小説書き始めた俺よりも、Vチューバーで凄く成功してて嫉妬したし、俺よりも対人関係が苦手な呱々原さんが凄く勇気を出して俺に友達になろうって言った時、素直に凄いって思ったんだ」

「……」


 俺の話を黙って聞いている呱々原さん。

 ここまで来たら、自分の醜い部分を全部オープンにしようと思って話を続ける。


「学校でも一生懸命勉強や委員会の業務に打ち込んで、その、堅実性って言うのかな。理由なんかどうでもよくて。着実に一歩一歩進んでいく姿勢。Vチューバーがどうとか以前に、凄く憧れてたんだ」


 だた、彼女が凄いのはそれだけじゃない。

 何よりも凄いのは__、


「でももっと凄いのは、そんな凄い君が、些細な事に沢山頭を悩ませているただの女の子でしかなかったって事。そんな状況に置かれてたらもっと舞い上がったって良いと思うのにさ」

「……些細」

「ご、ごめんね! 君にとっては些細じゃないんだけどさ! でも、その普通さって言うのかな。それが俺は凄く好きで」

「!?」


 好きって単語に過剰反応する呱々原さん。

 そういうつもりで言ったんじゃ、……いや、そうじゃない。


「一緒にただ、ラノベとかアニメの話とかしてる時も凄く楽しかったし、ゲームも凄い楽しくて、居心地がよくて」


 話している内に俺自身の考えもまとまってくる。


 そうだ。


「俺は呱々原さんの変わらない平凡さが凄く好きなんだ」

「え!?」


「俺は、君が好きなんだ」


 ここで気持ちを口走ってしまう俺。


 生まれて初めての告白。


 緊張で体が固まる。

 手足が震える。


 やってしまった。いやいい、行け。もうどうなっても良い。


「と言いつつ、俺は何も成し遂げられてない人間だけどね。それでも好きなんだ。駄目だったらしょうがないけど、俺と付き合ってほしい」

「うぇ!? え、でも」 


 突然の俺からの告白にあたふたする呱々原さん。


「わ、私。Vチューバー以外、と、取り柄がないよ?」


 涙目になりながら不安そうな呱々原さん。


 何度だって言おうと思った。


「呱々原さんがVチューバーとか関係ないよ。だって俺が好きなのは呱々原夜奈さんだし」


 俺が笑ってそう言うと、


「……っ!」


 呱々原さんがその場で両手に顔をうずめて泣いてしまった。


「え!? こ、呱々原さん! ど、どうしよう」


 うろたえる俺に、呱々原さんが涙声で言った。


「わ、私で、良ければ、お願いします」


 こうして、俺と呱々原さんは付き合う事になった。

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