第22話 呱々原 夜奈
私、呱々原 夜奈(ここはら よな)は、何不自由ない一般家庭に生まれた。
いや、周囲の人の発言を鑑みるに、裕福だったのかもしれない。
欲しいものはそんなにないけれど、必要なものは両親に言えば買ってもらえたし、家に来るお客さんは皆、私の生活環境をみて羨ましいと口を揃えて言っていた。
加えて、「お人形さんみたい」、「将来は美人さんになる」という両親の発言。
幼少期と言う事もあって、過保護さ故のモノだと思っていたけれど、それが世間一般的に見ても「そうなのかも」と思い始めたのは小学校の時だった。
私はいじめにあった。
どうやらクラスの男子が私に好意を抱いていたらしく、それに嫉妬した女子グループのリーダーが、仲間を引きつれて私にちょっかいをかけに来たのだ。
身なりで裕福さをアピールしてるとも言われて、モノを隠されたりもした。
そんな状況が中学まで続いて私は考える。
どうしてこんな状況になったんだろうと。
結果女子特有の陰湿な虐めが続く中で、私は学んだ。
私の価値観は置いといて、私の『容姿』や『家庭環境』は人の目を惹くレベルにあると言うこと。
それに嫉妬を覚えて攻撃してくる人間もいるのだということ。
つまるところ私のありのままを出す行動は軽率過ぎたのだ。
容姿を見られないように、前髪を伸ばして伊達メガネをかけた。
服装も持ち物も地味なのを意識して、取り入れるようにした。
そんなつもりはないけど、最初はクールぶって孤立して調子に乗ってると言われた振舞も、この格好をすることで逆に板についたらしく、その内何も言われなくなった。
そのまま中学を卒業して、高校は地元から離れて少し遠い所を選んだ。
高校でようやく手に入れた平穏。
嬉しいはずなのに、何故か不安が押し寄せてきた。
私は、こんな人生を歩みたかったのだろうか。
クラスメイトから厄介者として扱われたり、地味になって空気として孤立したり。
両親も高校に入ってある程度自立してから、仕事が忙しくて家に帰ってくる頻度が減った。
もとからの性格もあるけど、私は更に人とコミュニケーションを取るのが苦手になっていった。
男子からの好意めいた視線や女子からのやっかみの視線がトラウマになって、人と目を合わせるのが怖い。
なんだろう。
もっと自分を出して楽しく過ごしたい。そんな事を考えて幼少期は過ごしていたはず。
漠然とした不安にさいなまれる日々を送ってる中で、ある時私は動画サイトでVチューバーを観た。
凄く目を惹かれたのを今でも覚えてる。
皆自分の身分を隠して、素を出して生き生きと配信していた。
私と同じ様な過去を持つ人も明るく楽しそうに。
私も変われるだろうか。
そう思って変わりたい一心でオーディション受けて、今ほど規模が大きくない『2.5Dプロダクション』の会社に入ることが出来た。
配信は凄く楽しかった。
これまで見たこともない規模で沢山の人が自分を見てくれて、不器用な私がいくらドジな振舞をしてもそれを許容してくれて受け入れてくれる。
私自身が必要とされている感じがして、心地よかった。
そっか、私、誰かから必要とされて愛されたかったんだ。
この時私は自分が求めている気持ちに気付いた。
ここが私の居場所。見つけた。
……そう思っていたのに。
ある時から疑問を感じるようになった。
皆が必要としてるのは、Vチューバー『鳳凰院はかせ』であって、私ではないのではないか。
そう思ったきっかけは、コラボしたVチューバーが配信中に不適切な発言をしたとかで炎上したときだ。
私にとっては、その人とリアルでの面識もあったから、ありのままの姿が配信で出ただけだと思ってたんだけど。
ネットでは、騙したとか、信じてたのにって言葉が横行してて。
皆が見てるのは私達じゃない。
皆の頭の中で作り上げたイメージの私を好いてくれてるのだと気付いた。
だって現に、リアルの私は誰からも必要とされて居ないのだから。
逃げている現実と向き合わなきゃいけないと思った。
何か代わりのもので埋めようとしても、結局失敗するんだ。
そう思って進級した高校二年生。
自分を変えようと、同じ図書委員になった槙島 日向君に勇気を出して友達になって欲しいって伝えた。
最初は、自分から手当たり次第に交流していって、交流の輪を広げていくことしか考えてなかったけど、思ったよりも私は臆病でドジで何も出来なくて。
本来の私なんてこんなものなんだって落胆した。
でも、そんな中でも、日向君は私の事を励ましてくれて、良さを沢山見つけてくれて。
Vチューバーなんて関係ない、それがバレてからも普段と変わりなく接してくれて。
それが凄く嬉しかったし、心地よかった。
いつしか彼にもっと必要とされたいと思うようになった。
こんな気持ちになったのは初めてで、どうして良いか分からなくて、手当たり次第に動いてはいたけど、全部空回り。
日向君は私の事をどう思っていたのだろう。
王子さん。あんなに綺麗で格好良くてクールで。
羨ましい、何もない私とは大違いだ。
私は焦る気持ちが先行して、彼をテストの後にデートに誘ってしまった。
配信でリスナーの皆が教えてくれたアドバイスを頼りにアプローチをして、でも結局、空回ってしまった。
彼は、王子さんとのデートを控えていたし、私が勉強を見たのもただの余計なおせっかいだったのだ。
彼は、私よりも王子さんを必要としていた。
結局誰も、『呱々原 夜奈』という個人には興味がなかったのである。
私は、きっとこの先も一人だ。
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