第21話 怜との日曜日②

「一体何をやってるんだ君は」


 俺の話を聞き終えた怜が、額を手で抑えながらそう言った。


「本当に良い性格してるね君は。夜奈ちゃんに勉強見て貰ってたんじゃないか。何で本人に分からないって言わなかったんだい?」

「その、彼女が傷つくと思いまして」

「もっと傷つける事してた自覚を持った方が良いね。彼女の時間も奪ってるし好意も踏みにじってるよ。僕と遊ぶことも話すのも軽率だと思うし」

「……はい」


 怜に改めて指摘されたことで、俺が思っている以上に呱々原さんを傷つけた事を自覚した。


 後悔が押し寄せる。


 ただ、それとは別に__、


「ちゃんと次に会ったら謝った方が良いよ。それより君の煮え切らない態度は何なんだい?」


 怜が訝しんだ視線を俺に送ってくる。


 俺は考えてる事をそのまま口にした。


「……いやその、傷つけたのは本当だと思うし、誠心誠意謝るんだけどさ。呱々原さんが俺の事に好意を持ってるって言うのがどうも」


 その俺の言葉に怜が目を見開く。


 馬鹿かコイツはみたいな驚いた表情だ。


「馬鹿だね君は。昨日は一体彼女の何を見てたんだい」


 実際に言われてしまった。


「日向の話を聞く限りだと、彼女が発したデートって言葉も額面通りに受け取っても良いと思うけどね。君に好意があったんだよ」

「な、なるほど」

「今はどうか分からないけど」

「……」

「普通に考えれば、好意のない人をデートに誘ったりしないし、デート中に密着したり、ましてや家に招くなんてことも普通はないわけで」


 怜の口から出たことで、より状況が現実として入ってくる。


「何で好かれてないって思うんだい?」

「その、何ていうか。釣り合ってないと言いますか」

「ん?」


 俺は怜に説明する。


 俺は呱々原さんと違って凄い人間じゃない。


 いまだに小説もまともに書けてないし、普段から何一つ努力してないから勉強も呱々原さんと怜に尻拭いしてもらって、その二人には失礼かましてるクズ野郎なのだ。


 呱々原さんが俺を好きになった理由なんて、ちょっとしたことで励ました程度じゃないかな。


 そんな感じで俺が話すと、怜がため息を吐いた。


「君がクズなのは今に始まった事じゃないだろう。僕にどれだけ迷惑かけてると思ってるんだ」

「……はい」

「つまりあれかい? 大した事ない本当のゴミクズな自分を知られて愛想つかされるのが怖いから、夜奈ちゃんの好意から目を背けてると」

「……っぐ! まあ、そうとも言うかも」

「そうは言いつつ、関係の進展を期待して彼女の家に行ったり。状況がややこしくなったら好かれてないって逃げたり。本当に面倒くさい性格してるね君は」


 怜がコーヒーを一杯啜る。


 俺は逆に胃液が逆流しそうだ。自業自得なんだけど。


「夜奈ちゃんも別に君が思ってるほど、君の事凄いと思ってないと思うけどね」

「殺してください」

「悪い事じゃないよ。それは等身大に近い君を好いてくれてるって事さ。とにかく__」


 怜はコーヒーを一気に煽って飲み干すと、席を立った。


「つべこべ下らないこと言ってないで、早く夜奈ちゃんに謝って関係を修復しなよ」

「え、……どこ行くの?」

「帰るんだよ。君の女々しくて下らない愚痴を聞いてるほど暇じゃないからね僕は」

「ち、ちょっと相談したいんですけど!」

「自分で考えなよ。やれやれ、僕も甘やかしすぎたかな」


 そう言って、怜は俺を置き去りにして帰ってしまい、最悪な胸中のまま日曜日を終えてしまった。



■■■


  

◇通話開始◇


鳳凰院はかせ「……もしもし?」

如月みつき「おう! はかせどうした? 大丈夫か? 〇witterに『体調不良で休みます』って書いてあったからさ。気になって掛けちゃったよ! あ、迷惑だったかい?」

鳳凰院はかせ「だ、大丈夫だよ! わざわざありがとう! 嬉しい」

如月みつき「なら良かったぜ。意外と声も元気そうだし。……ひょっとして仮病かな~? ふふ、なんてな」

鳳凰院はかせ「……」

如月みつき「え、マジなの!?」

鳳凰院はかせ「………………うん」

如月みつき「いけないんだー! 社長に言っちゃおー!」

鳳凰院はかせ「待って待って待って待って待って!!!!!!!!!!!」

如月みつき「冗談だよ! なんか悩みがあるなら聞くぜ?」

鳳凰院はかせ「……でも、迷惑掛かるし」

如月みつき「この前いきなり家に泊りに来た奴が何言ってんだよ。同じ屋根の下で寝泊まりしたよしみだろうが! さっさと言え陰キャ」

鳳凰院はかせ「い、陰キャじゃないから!!」

如月みつき「お前家に来てほとんど喋ってなかっただろうが」



◇◇◇



如月みつき「つまり、自分がその友達の役に立ってなかったのがショックだったと」

鳳凰院はかせ「う、うん。別に私がいなくても良かったんじゃないかって」

如月みつき「お前善良な市民かよ! 私ならブチ切れてるけどね。それだけ勉強教えてたのに分かったフリだけされてたらさ。時間返せって思っちゃう。しかも裏で他の人に見てもらってたんでしょ? 往復ビンタの刑だね」

鳳凰院はかせ「う、うーん」

如月みつき「ソイツが十中八九まともな奴じゃないのは置いといて、はかせは役に立ってるよ! 常に相手に対する気遣いが出来るしさ。たまに意味わからん暴走するけど」

鳳凰院はかせ「……でも」

如月みつき「何?」

鳳凰院はかせ「……結局はもう一人の友達を頼った訳で。その人の方が必要とされてるって感じがして。……なんか、……嫌になって」

如月みつき「……はかせ」

鳳凰院はかせ「何?」

如月みつき「その友達って男でしょ」

鳳凰院はかせ「な、なんで!!!!!!!!????????」

如月みつき「やっぱりね」

鳳凰院はかせ「いやいやいやいやいや」

如月みつき「いやいやいやいやいや」



◇◇◇



如月みつき「まあ分かりました。色々言ってたけど、結局は他の女に取られたのがショックだったって事ね」

鳳凰院はかせ「何でそうなるの!?」

如月みつき「はかせ気付いてないの?」

鳳凰院はかせ「え?」






如月みつき「それって好きって事だから」

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