第19話 呱々原さんとデート④

◇20:00~ 鳳凰院はかせの配信◇



「ほ、鳳凰院はかせです。今日もコンビニアルバイトのゲームをや、やっていきます」



【コメント欄】

 待ってました

 今日も可愛い陰キャ



「い、陰キャじゃない。から。あ、お客さん来た。い、いらっしゃいませ~」



【コメント欄】

 今日はなんかおとなしめだね!

 そういえば友達の件どうなったの?



「そ、その話題今は禁止だから!! コ、コンビニバイトさせて! あ、強盗に入られてるじゃん! なにこのゲーム!?」



【コメント欄】

 お、進展あり?

 喧嘩したの?

 友達どうなったの?


「わーわー!! ち、ちょっと待って一旦トイレ言ってくる!!」



■■■



 配信中にミュートにしていきなり席を立つ呱々原さん。


 部屋が防音設備で、ドアの中心がガラスになってるから中をのぞけるんだけど、呱々原さんが勢いよく部屋から出てきた。


「……へ、変になってない、です!?」

「だ、大丈夫だよ!」


 必死な剣幕で尋ねて来る呱々原さん。


 やっぱり俺に見られるのきついんじゃないかな。


「お、終わるまでリビングで待ってようか!?」


 そう言って立ち去ろうとする俺の腕を、呱々原さんが両手で必死に掴む。


「だ、大丈夫、だから!」


 いや大丈夫ではないでしょ。


「……み、見てて欲しい」


 呱々原さんから懇願されて、俺は引き続き呱々原さんの配信を眺める。


 呱々原さんの動きに合わせて、『鳳凰院はかせ』のモニターイラストが表情豊かに動いている。


 ああやって配信してるんだな。


 それに今、何万人ってリスナーが呱々原さんの配信を視聴してるんだよな。


 その裏側を、俺だけが今こうして見れてる状況で。

 何というか、優越感を感じて嬉しくなったり。


 あと、呱々原さんって配信の内外含めて、凄く面白い人だなって思った。


 結果が出てるのは、努力してるからってのももちろんあるけど、人を引き付ける元からの

魅力もあると思う。


 今この場にいるのが楽しくてしょうがなかった。


 そこから一時間弱、呱々原さんは照れながら室内を出たり入ったりして俺の様子を確認したり、チラチラと室外にいる俺をのぞき見しながら、『はかせ』としての配信は終わった。


 気付けば時刻は二十二時を回っていた。


 そろそろ帰らないといけない。


「じゃ、じゃあ、帰るね」

「……う、うん」

「……」

「……」


 呱々原さんが見送りしてくれるらしい。


 夜道を歩かせるのは危険なので、お言葉に甘えてマンションのエントランスまで一緒に向う。


 エレベーターに乗りながら、俺は口を開いた。


「また、き、今日みたいにで、デートしない」

「!!!???? う、うん」


 今日は呱々原さんにリードされっぱなしだった。


 そう言うの死ぬほど苦手なはずなのにね。


 男だし、次は絶対俺からいかないと。


 そんな事を考えていると、


「あ、明日の、予定、は?」


 呱々原さんが手をモジモジさせながらそんなことを聞いてきた。


 浮ついてて頭が働いてない俺。


「え、ああ、怜と遊ぶ約束してーーーーー、……あ」

「!!!???」


 普通に怜と遊ぶ事を呱々原さんに言ってしまった。


「……………………」


 呱々原さんを見ると呆然としている。


 べ、別の女子と遊ぶって、いくら幼馴染の怜でも、気分が良いわけがなかった。

 っていうか呱々原さんに変な誤解を生んでほしくない。


「い、いや、あくまで幼馴染だし、兄弟で遊ぶみたいな感じだからね!? す、数学のべ、勉強のお礼に俺が買い物ついていくことになってさ!?」

「……数学?」


 死んだ。


「……や、やっぱり、私の説明、わ、分からなかった?」

「そ、そんな事ないよ!! こ、呱々原さんも凄く分りやすかったよ!!」


 呱々原さんが純粋な瞳を俺に向けてくる。


 これ以上誤魔化すのが余りにも申し訳なさ過ぎて、


「……っ!」


 俺は目を逸らしてしまった。


 それを呱々原さんがどう解釈したのか。


「ご、ごめん、なさい」

「ち、ちがくて! こ、これはその!」

「だ、大丈夫、……です!」


 そうして上手く弁明する事も出来ないまま、呱々原さんと別れてしまった俺。


 その帰り道に、呱々原さんに本当の事を言って謝りたくて〇INEをしたけど、この日初めて俺は彼女から既読無視されてしまった。


 さらにSNSには、『明日は体調不良でお休みします』と投稿されていた。


 た、大変な事をしてしまった。

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