第18話 呱々原さんとデート③

 その後は、落ち着いた呱々原さんと一緒にコーヒーショップに入ってひと息つけることに。


 夕方って事もあってか、ここの客層も安定していた。


「凄かったね。シャンポリが同年代のライバルたちとしのぎを削りながら成長していく感じが熱くてさ」

「……う、うん。か、感動したね」


 薄暗くなっていく窓の景色を眺めて、映画終わりの余韻を楽しみながら、二人して感想を言い合う。


「……そろそろ時間だね。駅に向かおっか」

「う、うん」


 永遠にこの時間が続いて欲しいと想いながら、二人で夜風に当たって駅を目指す。


「そういえば呱々原さんって、今日配信やるの?」

「……き、今日この後帰ったら、や、やるよ」

「凄いね」

「……そ、そんな事、うぇへ」


 今は夜の六時くらいだから、いつも通り八時くらいからやるんだ。


 丁度帰りの道中で横切ったコンビニの前には、Vチューバーとのコラボ商品が広告されてる旗が立っている。


 改めて思う。


 俺はこんな凄い人と知り合いになれたんだよな。


「ま、槙島君は、どう?」

「ん?」

「し、小説」


 その呱々原さんの言葉にドキッとする。


「ま、まだもうちょっと掛かるかな」


 全然書けてません。


 みじめになるからその話題に蓋してたけど、呱々原さんにこじ開けられた。


 本当に書かないと。


 努力出来る呱々原さんと自分を比較して焦りつつ、話題そらしのために、呱々原さんに改めて話題を向ける。


 ネタは、俺が以前から気になってた事だ。



「呱々原さんが、配信してる姿ってどんな感じなの?」



「!!!???? どどどど、どんな感じ、とは!?」

「い、いや、何て言うの!? 配信環境は以前ちょっと見せてもらったけどさ! 実際はVチューバーの人が配信する時ってどんな感じなのかなって凄い気になってさ!」

「……う、うぅ」


 呱々原さんが俯いて縮こまってしまう。


 こ、この話題はやめた方が良いかな。

 呱々原さんがありのままの自分を出せるデリケートな空間の話だし。


 そう思っていたら、


「み、見たい、の?」

「え?」

「その、……わ、私が配信してる、所、です」


 上目づかいで見てくる呱々原さん。

 一ミリも意図してないだろうけど、あざとく見える。


「み、見れるなら見てみたい、かなー。なんて」


 大物Vチューバーの配信してる姿なんて、めったに見れるものじゃないし。


 俺が正直に伝えてみると、呱々原がしばし考えたのち、


「だ、大丈夫、だよ」


 呱々原さんが承諾してくれた。


「あ、ありがとう。ほ、本当に良いの?」

「う、うん。槙島君なら。……い、いつにする?」


 そう尋ねてくる呱々原さん。


 今日は呱々原さんと離れたくない。そんな気持ちも湧き出てきて、


「き、今日とかは?」


 俺は、何をトチ狂ったのか、そんな事を口走ってしまった。


 そして、


「…………良いよ」


 呱々原さんは頬を赤らめてコクンと頷いた。


 ま、まあ明日は日曜日だし、怜と遊ぶ約束も控えてるけど、その前には帰ってこれると思う。


 というわけで、人生二度目の呱々原家にお邪魔することになった。



■■■



 電車に乗って数十分。


 二人で会話もなく歩き続けていると、呱々原さんの家のマンションに到着した。


 彼女に案内されて改めて家にお邪魔する。


 すると、


「……り、両親、いないから」


 今日も呱々原さんの親御さんは仕事で帰ってきていなかった。


「前回もいなかったよね。普段はいつ頃帰ってくるの?」

「と、共働きで。……中々帰るのが遅いから、し、深夜とか、かな」


 正直鉢合わせしたら何て挨拶しようと思って緊張してたからホッとしてる部分はあるけど、前回コソコソ遊びに来ているみたいで、それはそれで不安なんだよな。


「……ど、どうぞ」


 呱々原さんが親切にもリビングのテーブル席にコーヒーを用意してくれた。


 飲むのが勿体ない。

 家の蔵にでも入れておきたい。蔵なんてないんだけど。


「こ、ここで、待ってて」


 そう言うと、呱々原さんが自室に籠ってしまった。


 そのままリビングでコーヒーを啜って待つこと十数分。


「……ご、ごめんなさい。お、……お待たせしました」

「あ、謝らなくて良いから! 俺の方こそなんかごめんね!」


 そうして今夜、どういう経緯か、俺は呱々原さんの生の配信を見せてもらえることになった。

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