第14話 彼女の家で勉強会③

「いきなり押しかけて来たと思ったら言うことはそれかい?」


 椅子に座ってため息をつきながら、額を床に擦りつける俺を見下ろす怜。


 今は夜だから、薄いTシャツにショートパンツというラフな格好をしている。


「大事な話があるって言うから何かと思えば……」


 自分の体を抱きしめながら、ぶつくさと何か独り言を言っている。


 その仕草でデカい胸が強調されてる訳だけど、立て続けに迷惑かけてる申し訳なさと勉強見て貰えなくなるので、死んでも言わない。


「……夜奈ちゃんには見てもらえないの? 同じクラスなんでしょ?」


 一瞬不貞腐れ気味な仕草をしたような気がしつつ、怜がそんな事を言ってくる。

 言葉に詰まる俺。


「えっと、その……」

「夜奈ちゃん勉強苦手なの?」

「いや、出来る方だと思う」

「なら__」

「ち、ちょっと待って! その、怜の方が頼りやすいっていうか、何と言いますか」


 歯切れの悪い俺の発言に怜が再度ため息を吐く。


「この前まで避けてたのに。僕は日向にとって随分都合が良い存在なんだね」

「そ、そういう訳じゃなくて! ほら、怜の説明凄く分かりやすいし、中学の時もそれで凄い助けて貰ったからさ! つい頼っちゃったっていうか。こういう時頼めるの怜しかいないし。俺奢る時チョコレートパフェもっと頼んでいいからさ!」

「そんなにいらないよ。でもそっか、……ふーん」


 沈黙の間。

 

 駄目だ帰ろう。


 怜の言う通り余りにも都合の良い事言ってるし、凄く今の俺情けない気がする。


 単純に普段勉強してないツケが回ってきてるだけだからね。

 

 やっぱ自分のケツは自分で拭くべきだよ。土下座した後だからもう格好付かないけど。


 俺が帰ろうと口を開こうとすると、


「良いよ」


 怜がそう言ってきた。


「え?」

「だって日向、僕以外頼める人いないんでしょ? これで君が留年したら後味悪いし」


 そんな事を呟く怜は心なしか嬉しそうに見えた。


「ありがとうございます怜様!」


 改めて深々と土下座する俺。


「それとそうだね。君に付けてた貸しだけど、テストが終わったら次の休日僕に付き合ってよ。行きたい所があるんだ」

「行きたい所って?」

「ん? 買い物とか、……映画館とかかな。他の友達は予定が埋まっててね。一人で見に行くのが嫌なんだ」

「……」

「どうしたんだい日向?」

「いや、女子みたいだなと思って」

「女子なんだよ」


 怜はそう言うと、俺が持ってきた教科書を一読する。


「そう、僕は女の子なんだ。だから丁重に扱えって訳じゃないけど、余り雑に扱われると流石に考えるモノがあるね。一人で勉強するかい?」

「肝に銘じておきます」


 と言う事で、怜に勉強を見てもらえることになった。



■■■



「……ここ、は、……だよ。だから、その、です」

「う、うん! な、なるほど!」


「応用問題に行く前に基本問題を沢山解いた方が良い。まずは典型的な問題の解き方に慣れておくんだ」

「なるほど」


 その後のテスト期間中は、放課後呱々原の家で勉強を教えて貰って、その後怜の家で勉強を教えて貰う日々が続いた。


 執筆? そんな暇ないです。


 そして、ついに全ての教科のテストが終了し、


「……やった」


 俺は平均五六十点台で無事中間テストを乗り越える事が出来たのだった。



■■■



「……うぇ、で、でも、良いの?」

「全然良いよ! 寧ろお礼させてよ呱々原さん」


 その日の放課後、俺は呱々原さんを連れて、学校の最寄り駅にある有名なシュークリームのお店に来ていた。


 彼女が配信で甘いモノが好きだって言っていたからだ。


 分かりやすく教えてくれたのは怜だけど、呱々原さんだって自分の貴重な時間を使って、何日も掛けて俺に勉強を熱心に教えてくれた事実は変わらない。


 ぜひともお礼がしたかった。


「ってことで好きなの頼んでいいよ! 一個で足りる?」

「うぇっと、そ、それじゃ、……す、すみません」

 

 そう言って、呱々原さんが申し訳なさそうに、クッキー生地のシュークリームを一つ頼んで、恐る恐る頬張る。


「……お、美味しい。でへ」


 その綻んだ彼女の表情を見て俺が安心していると、


「美味しそうだね」


 と横から女子が話しかけてきた。

「え!?」


 見ると、他校の制服姿をした怜がいた。


「何でここにいるの!?」

「服を買いに来たんだ」


 怜はそういうと、夜奈にも満面の笑みで挨拶する。


「夜奈ちゃんこんばんわ」

「……は、……………………ふぁい」


 呱々原さんはシュークリームを食べるのを止めて怯えながら口をパクパクさせていた。


 前回仲良くなったと思ったけど、まだ時間が掛かるようだ。


 怜の陽キャオーラを恐れているのか、いつの間にか俺達との距離が若干が離れている。


 あまり気にしてない怜は俺に話しかけてくる。


「ところで日向は、テストどうだったの?」

「あ、うん。無事赤点回避したよ」

「そっか。僕が見た甲斐があったね。数学なんて壊滅的だったから」 

「あ!!!」


 ここで俺は壊滅的なミスに気付いた。


 二人に勉強見てもらってた事を二人に言ってない。


 呱々原さんを見ると、?マークを浮かべながらきょとんとこちらを見ていた。


 怜が呱々原さんに補足を加える。


「僕が日向の勉強を見てたんだよ。僕の説明分かりやすいからって突然家に押しかけてきてさ。特に数学全般__」

「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 オワタ\(^o^)/

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