第13話 彼女の家で勉強会②


 予想外の呱々原さんからの提案に動揺しつつ、放課後二人で彼女の家へと向かう事に。


 学校からだと、俺の家よりも呱々原さんの家の方が近いらしい。


 緊張しながら彼女についていくこと電車で三十分。


「こ、……ここ。私の家」


 呱々原さんが止まったのは、どこか気品を漂わせる大きくて綺麗なマンションだった。


 エントランスに入った所で、


「……あ、き、今日、両親が家に、いなくて」


 そう言って呱々原さんはオートロックのインターホンを鍵で開けて中へと入っていく。


「なるほど」


 何に納得したのか自分でも分からないけど、頷いて後ろから付いていく俺。


 何で今その情報開示したの呱々原さん。


 おかしい。

 ただ勉強しに来ただけなのに緊張する。


 ドキドキしながら二人きりでエレベーターに乗って十階まで行く。


「こ、呱々原さん。配信は大丈夫なの?」

「……う、うん。テスト期間だから。か、会社が、無理のない範囲で良いって」


 そうして呱々原さんに案内されるままに、俺は彼女の家へと足を踏み入れた。


 そこには玄関からリビングに至るまで、よく手入れされた清潔感のある空間が広がっていた。


 高そうな家具や壁紙が設置されていて、裕福感を漂わせる。


 自分の家の散らかった惨状と脳内比較しながら呱々原さんに案内され、ある部屋の前で止まった。


「……こ、ここ」


 ドアにはハートマークで『夜奈』の看板が貼ってある。


 可愛い。持って帰りたい。


 呱々原さんが開けた部屋の中に俺も入る。


 そして、


「え、凄い!」


 自然と驚きが俺の口から漏れた。


 高性能そうなデカいPCや配信機材、高そうなゲーミングチェアにモニターも二つ机の上に並べられていて、語彙力死んでるけどいかにも配信者って感じの空間だった。


 棚や壁には自分が活動している鳳凰院はかせや、他のVチューバーのグッズやポスターが並べられている。


 そんな中でもやはり年相応の女の子と言うべきか、ベッドはピンク色のシーツが敷かれていて、その上に可愛い動物のぬいぐるみなんかがいくつも置かれている。


 っていうか、機器も家具もピンク一色でいかにも女の子の部屋って感じだ。


 あとクソ気持ち悪い事言うと呱々原さんと一緒の匂いがする。


「ぐっっっっっっっふぅっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「え!? 呱々原さん!? 」


 俺が部屋の匂いを堪能していると、呱々原さんがいきなり吐血して床に突っ伏した。


「はぁはぁ……へ、部屋見られるの、は、恥ずかしい、し、死ぬ、もう無理生きていけない」

「自分で連れてきておいて!?」


 何で俺を家に招いたの呱々原さん!? 


 このままだと過呼吸で蹲ってる呱々原さんが持たない。


 俺の方も気が気じゃないので、リビングをお借りして改めて二人で勉強する事に。


「……」

「……」


 俺はテーブルの上に数学の教材を並べてページを開くけど、全然集中出来ない。


 向かいの呱々原さんが問題を解きながら上目遣いでチラチラとこっちを見てくるからだ。

 目を合わせると慌てて下を向くんだけど。


「わ、分からない所とか、ない、ですか?」


 彼女が助け舟を出してくれる。


「……えっと、そうだね」


 ひとまず今着手してる場合の数と確率の問題を呱々原さんに見せてみる。


 こんなもん人生のなんの役に立つんだと考えていると、


「……こ、これは、こう、で」


 呱々原さんがもくもくと問題を解き始めた。


「え、呱々原さん解けるの?」

「……う、うん。な、なんとか」


 その後も呱々原さんは俺が示した問題箇所をスラスラと解いていく。


「す、すごいね」

「うぇへ」


 聞くと、毎日一〜二時間は予習復習してるらしい。


 やばい。全然勉強できない仲間じゃなかった。

 本人の自己肯定感が低いだけだ。


 っていうか普通に彼女は頑張ってた。


 配信も結果を出して、それに奢らず勉強も頑張って。


 大きな結果を出してる人間は、やっぱり目の前の事にも手を抜かないのだ。


 惨めな気持ちになるんですけど。


 これ以上醜態を晒したくなくて俺がひよっていると、


「ま、槙島君の……ち、力になりたいから。……わ、分からない所あったら、その、何でも、聞いて」


 薄く頬を染めて恥ずかしそうに呱々原さんがそう言った。


 その言葉に俺は反省する。

 俺はまた自分の見栄の事しか考えてなかった。


 何のためにここに来たと思ってんだ。

 不純異性交遊が目的じゃねえぞ。舐めてんのか。


 呱々原さんは俺にこれだけ協力してくれてるのに。


 申し訳ない気持ちはあるけど、ひとまず目先のテストを片付ける事が先決だ。

 そんで後で彼女に必ずお礼をしよう。


「ありがとう呱々原さん!」


 俺は彼女をまっすぐ見つめてお礼を言った。


「ううぇ!!!??? ……う、うん」


 そうして心機一転勉強モードに入って、改めて素直に呱々原さんに教えを請うことに。


 呱々原さんが教科書を指さしながら俺に説明をしてくれる。


「……こ、これは、えっと、あの」

「うん!」

「……こ、こうで、あれ? ……えっ」

「うんうん」

「……その、……なって」

「うん」

「……それで、……あの」

「……うん」

「………………………………………………………………………です」

「……」


 ……。


「語彙力ゴミでごめんなさい」

「いや分かるよ! 分かる! 呱々原さん大丈夫だよ!」


 ちょっと待って。水飲んでいい?


 その後俺でも理解できるように一生懸命動物のイラストとかを書いて補足を入れてくれる呱々原さん。


 なのだが、


「……はぁ、はぁ、はぁ」


 如何せん説明が上手くいかないらしく、次第に顔が曇って涙目になる彼女を見て、


「な、なるほど! そう言う事だったのか! 分かりやすい!」


 俺はそう言う事しか出来なかった。


「……え、そんな。……だ、大丈夫だった?」


 上目づかいでうるんだ瞳を向けてくる呱々原さん。


「だ、大丈夫だよ! 呱々原さん、凄く説明が上手なんだね!」

「!? そ、そんな事、ない、よ」

「そんな事あるよ! 凄く助かったよ!」

「……えへ」


 罪悪感が凄い。


 次第にぱっと笑顔になっていく呱々原さんをみたら、もう引き返せないんですけど。


「……も、もし良かったら、また、勉強会、……しませんか?」


 そんなやり取りを呱々原さんとしてその日の勉強会はお開きとなり、そして、


「怜様!! 私目に勉強を教えてください!!!!!」

「……はぁ」


 その夜、俺は怜の家に土下座をしに行ったのだった。

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