第11話 ウチに来た

 やべえどうしよう。この状況を怜に何て説明する?


「小説忙しくてお前との遊び断ってる間、呱々原さんとは遊んでました」って言うの?


 殺されるでしょ。


 俺結構クズな事してることに今更気付いた。

 死ぬほど遅いけど。


 ひとまず誤魔化さないと。


「……あの、とても良い質問だと思います」

「ありがとう。で、何してるんだい?」

「あれ? 買い物行ってきたんだね? 何買ったの?」

「何してるんだい?」


 乾いた笑顔で追及してくる怜。


 九割九分九厘詰んでる事は分かった。


 ちなみに怜は、白Tシャツにショートパンツ、黒のスニーカーといったラフな恰好をしている。


 格好は緩いけど、豊満なボディラインが強調されている服装はさぞ道行く人の視線を釘付けにしたに違いない。


「余計な事考えてないかい?」


 モノローグの脱線すら許されずに俺が絶望していると、

 

「!? その子フラフラじゃないか」


 体力の限界で気絶寸前な呱々原さんを見て、怜が真剣な表情を浮かべた。


「まったく何やってるんだ君は。これ持ってて」

「え? あ、はい」


 怜は俺に呆れながら買い物袋を預けてくると、呱々原さんに近付いて、


「よっと」


 突如呱々原さんを軽々とお姫様抱っこした。


 リラックス出来る状態になった事で呱々原さんの魂が体内に戻っていく。


「……ん、……!!!!!!!?????????」


 突然の自分が抱えられている状況に、カートゥーン調で目を丸くする呱々原さん。


「もう大丈夫だよ。今日は疲れたね、早く中で休もうか」


 そんな彼女に煌びやかな王子様スマイルで応える怜。


「……あ……あぁ……あふぇ」


 怜のド陽キャオーラを間近で浴びたことで、超絶人見知りの呱々原さんは再度気絶した。


「ふふ。疲れて眠っちゃったみたいだね」


 トドメ刺したの間違いだけどな。

 怖いから黙秘するけど。


「君の家に入るよ?」

「はい」


 怜は俺に確認を取ると、俺の家の敷地内へと入っていく。


 その後ろを息を切らしてフラつきながら何とか付いていく俺。


 ……。

 普通逆じゃない?


 俺が男として呱々原さんを支えるべきじゃないの?


 自尊心が砕け散りながら三人で家の中へと入り、一人は幼馴染の怜とはいえ女子二人を家に連れてきた俺に驚く両親に事情を説明する。


 その後、呱々原さんの親御さんが迎えに来るまで俺の部屋で時間を潰す事になったんだけど。


「二人はどういう繋がりなんだい?」


 俺のベッドに腰掛けて一息ついた怜が開口一番切り込んできた。

 ここは普通に興味本位で聞いているような気がする。


 俺は説明する。


「お、同じ高校の友達だよ。最近一緒の図書委員になってさ! そ、そこから共通の趣味で仲良くなって、その、、、」

「……その? 何だい?」


 よし、土下座しよう。


 俺が両手を床について頭を垂れようとすると、


「き、君は何してるんだ!?」


 怜が狼狽えだした。


 俺にじゃない。


 隣を見ると、既に呱々原さんが土下座して丸まっていた。


 呱々原さん何してんの?


「……ご、ごご、ごめんなさい、でした!」


 目覚めた彼女は床と一体化するかのごとく平身低頭で、それはもう海よりも深く深く土下座していた。


「そ、その、き、今日槙島くんと、あ、遊んでしまい、ました! 大変申し訳御座いません!」

「呱々原さん!?」


 何で呱々原さんが謝るの? 全然悪くないのに。


 彼女の発言に困惑する俺をよそに、「ああ、そういうことか」と怜が腑に落ちた様子を見せる。


「呱々原さんだったかな。安心して。別に僕はそこの彼と付き合ってるわけじゃないから。ただの隣家の幼馴染だよ」

「……え、あ。そ、そうなん、ですか?」

「お互い何とも思ってないよ。だよね? 日向」


 ああ、俺と怜が付き合ってると思ってたのか。

 確かに彼女がいる男子と裏で遊んでたら不純って思っちゃうか。


 視線で訴えてくる怜に応えるべく、俺も誤解を解くことにする。


「ないない。俺も何とも思ってないから」

「……引っ叩いて良い?」

「何で!?」


 驚く俺を無視して怜が「……冗談は置いといて」と話を続ける。


「呱々原さんはその恰好脱がないの? 熱くないかい?」


 ここでようやく怜は呱々原さんの不審な格好に触れた。

 一応気にはしていたらしい。


 対する呱々原さん。


「……え、あの、その。……ぬ、脱ぎます」


 素直に身に着けているものを外していき、その端正な素顔を晒した。


 すると、


「……か、可愛い」


 手で口元を覆ってそう声を漏らしたのは、俺ではなく怜だった。


 怜は黙って呱々原さんの横に座り始めると、ニッコリ笑顔を彼女に浮かべる。


「下の名前何て言うの?」

「……あ、え、あ、……あ、え。よ、よ、……です。あふぇ、ごめんなさい」


 グイグイ来る怜に対して完全にビビり散らしてる呱々原さん。


「そっか夜奈ちゃんって言うんだね」


 何で分かるんだよ。


「可愛い名前だね。あ、夜奈ちゃんって呼んでいいかい?」

「……………………………………ど、どぞ」

「まるでお姫様みたいだ」

「え、あの、その」


 怜が呱々原さんの手を握る。


「!!!!!!!????????」


 動揺しまくる呱々原さん。


「……何やってんの?」


 ここでようやく俺が割り込んで入った。


 我にかえって反省する怜。


「ごめん。悪い癖が出たね。可愛い生き物が目に入るとつい愛でたくなるというか何というか」


 そう言えば小学生の頃怜の部屋に遊びに行った時も可愛い人形が沢山置いてあったっけ。

 今もそうなのかは分かんないけど。


 あと女子高でも気に入った子にあんな王子様然とした振舞いしてるなら、モテるのも頷ける。


「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


 呱々原さんは完全に地蔵になってしまった。


「げ、ゲームあるけど、皆でやらない!?」


 俺は慌てて押し入れから少し古い家庭用ゲーム機を取り出した。



■■■



 その後は三人で二人対戦用の格闘ゲームをして遊んだ。


 中学の時には怜とよくこれで遊んでたし、コントローラーは二本分あって、ローテーションを組みながら対戦していった。


 実力は皆拮抗していて、とても良い勝負だった。


 まあ、俺が接待してあげてるんだけどね。


 そろそろ本気出して恰好良い所見せても良いですか?

 え、俺またなんかやっちゃいました?


「夜奈ちゃん次は日向とだよね? 実はちょっと手加減してるでしょ? 本気でやっていいよ」

「……う、うぇ!?」


 怜にそう促された呱々原さんと戦った俺は、ハメ技でボコボコにされてほぼ何もできずに完封された。


「夜奈ちゃんゲーム上手いね」

「……そ、それほどでも。えへへ」


 ショックで蹲っている俺をよそに怜と呱々原さんは仲良く話している。

 ちょっとは打ち解けられたのだろうか。


「普段からゲームとかやってるの?」

「……は、配信とかでよく、や、やったりはし、してます」

「ん? 配信?」

「!!!!!!!???????」


 口を滑らせてしまって汗だくになっている呱々原さんと疑問符を浮かべる怜。


「それってどういう__」


 怜が呱々原さんに聴こうとした所で、ピンポーン! と、家のインターホンが鳴った。


 一階にいる母からの知らせで、呱々原さんの親御さんが迎えに来たことが分かった。


 呱々原さんを玄関までお見送りすると、俺の母と呱々原さんのお母さんがお互い「ウチの子が迷惑をおかけしてすみません」と頭を下げ合っていた。


 俺と呱々原さんも頭を下げて、呱々原さんが家族の車に乗る。


「……ほ、本当に今日は、す、すいません、でした!」


 後部座席の窓を開けて謝る呱々原さんに、俺と怜が応える。


「お、俺の方がごめんね! っていうか凄く楽しかったよ! また遊ぼう!」

「……うぇ!? う、うん」

「夜奈ちゃんまた遊ぼうね」

「は、はい」


 そう言って、俺と怜は呱々原さんの乗った車を手を振って見送ったのだった。


「……」

「……」


 沈黙の空間。


 母が先に家へと戻っていき、怜と二人きりになった。


 すると、


「ん」

「え?」


 怜が横から肩を軽く小突いてきた。

 痛みはない。


「な、何?」

「別に。夜奈ちゃん良い子だったね」


 そう口にする怜の顔は、まだ走り去った車の方角を向いていて、表情が読み取れない。


 俺はこの時、ファミレスで自分の弱さを俺に曝け出してくれた呱々原さんを思い出していた。


 マジで死ぬほど格好悪いな。俺。


「怜。本当ごめん」


 俺は怜に微塵も小説を書けてない事、格好悪い自分を見せるのが嫌で見栄で怜を遠ざけていた事を正直に白状した。


 すると、


「別に気付いてたから良いよ」


 怜がやれやれといった仕草をしながらそう言った。


 俺が動揺していると、


「だって君、今までそうやって何でもかんでも手に付けて長く続いた事ないじゃないか」

「う、ぐ!!!!!」


 し、死ぬ!! い、いや、その通りなんだけどさ!!


「正直に話したことに免じて、君が僕の遊びを断った回数×チョコレートパフェで許そうかな」


 大人な対応をする怜。

 きっとパフェも冗談なのだろう。

 

 より自分が情けなくなった。


「そ、それで許されるのは逆に納得いかない、と言いますか」

「許しての次は自分が納得する方法で罰してくれって? 相変わらず君はワガママだね」

「うぅ」

「……そうだね。じゃあ考えておくよ」


 そういって再度俺の肩を小突いてくる怜。


 その拳は心なしかさっきよりも力が強かった。

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