第5話 ゲームの彼女は主人公①

■■■


◇20:00~ 鳳凰院はかせの配信◇



【コメント欄】

はかせの好きな異性のタイプ教えてー



「え、私? えっと、、、な、なんだろう」



【コメント欄】

 そもそも異性に興味ある?

 異性以前に対人コミュニケーション何とかしないとね



「ば、馬鹿にすんな! 言えますー! 好きな異性のタイプでしょ!? えっとね、……し、失敗した時に励ましてくれたり、変なとこ見せても気にせず接してくれたり。い、いつも明るく沢山話しかけてくれて。や、優しい人、かな? ……い、いや! そ、そういう異性が居たら良いなって話だよ!? い、今は微塵もいないから!」


■■■


 呱々原さんが鳳凰院はかせだと判明してから五月に入った。


 配信を観ていると、彼女はまた少しずつ本来の自分を取り戻せて来ているようで。

 この明るく振舞ってる感じが、本来の彼女の素なのだろう。


 その内俺の前でもこれくらい内面を出してくれたら嬉しい。


 配信内容は俺の息の根を止めに来てるけど、ひとまず元気になって良かった。


 好きな異性の条件に大分当てはまってる気がするんですけど。

 微塵もいないってどんだけ脈なしなんだ俺。


 そんなことを考えつつ、俺の頭は別の想いにも支配されていた。


 まさか登録者数二百万人の今をときめく大人気Vチューバー『鳳凰院はかせ』と友達になるなんて。


 彼女の知名度は計り知れない。


 全国のコンビニ、アニメショップ、ゲームセンター、書店、テーマパーク、etc。


 ひとたびそこら辺の施設に入るだけで、彼女の所属する『2.5Dプロダクション』事務所とのコラボ商品が店頭にズラリと並んでいるのだ。


 様々なVチューバーの商品が並ぶ中、そこには当然はかせの商品もあって。


 こんな凄い人と友達になれた高揚感を感じつつ、その半面、同い年なのに全然結果を出せていない自分に実は焦りを感じていたり。


 俺も小説を書かなきゃと自身に発破をかけても、指先がキーボードを叩くことはない。

 そもそもまだ何のジャンルを書くのかも決まってないんだよな。


 うーん、マジでどうしよう。


 そんな悩みを抱えながら、俺は今日も学校へと向かうのだった。


 ■■■


「呱々原さんってさ、配信企画でよくゲームやってるよね」


 図書業務の時間。

 俺は呱々原さんにそう尋ねた。


 お互いの事を少し打ち明けた事で、以前より気兼ねなく話せるようになってきた俺と呱々原さん。


 彼女と話してると何だかんだ楽しいし、朝の憂鬱とした気分も浄化される。

 呱々原さんと一緒にいる時間は、間違いなく俺にとって憩いの場となっていた。


「う、うん。好きだから。……あ、いや。す、好きって、あの、その」


 どこか恥ずかしそうに答える呱々原さん。


「へーそうなんだ! 次の企画もゲームなの?」

「うぇ!? えっと、……一応ロールプレイングをやろうと思ってて」

「へえ! 何のゲーム?」

「……ド、ドラハン」

「あ、知ってる!」


 『ドラゴンハンターワールド』。通称ドラハンは、大手ゲームメーカーが開発した大人気アクションRPGである。

 プレイヤーはハンターとなり、広大なオープンワールドで様々な巨大なドラゴンを狩猟し、手に入れた素材をもとにより強力な武器や防具を装備していき、さらに強力なドラゴンへと戦いを挑んでいく。


 オンラインを使った複数人での協力プレイも可能だ。

 

 切りぬき動画で他の配信者がプレイしてるのを観たことがある。


「良いじゃん! 凄く面白そうだね!」

「う、うん。……今ちょっとだけ前もってやってるけど。……お、面白いよ」

「へー、そうなんだ! 俺最近ゲームとかやってないからさ! こういう話してると何だか久々にやりたくなって来るよねー」

「!?」


 俺がそう笑って言うと、途端にオズオズとしだす呱々原さん。


「……む、無料でPCでダウンロード、で、出来るよ」

「へー! そうなんだね!」


 俺はそう言いつつ、何だかんだまた切り抜きで満足するんだろうなとか考えていたら、


「……ま、槙島君も」

「ん?」

「も、もしよかったら、い、……一緒に、……や、やりま、せんか?」


 尻すぼみに声を小さくしながら呱々原さんがそう言ってきた。


 隣に座る彼女に視線を向けるも、前を向いて俯いているため表情は見えない。

 手元を見ると、制服の片方の袖をキュッと指先で摘まんでいる。


 心臓が跳ねる。


 え、結婚する?


「え、い、一緒にやるって。……俺と呱々原さんがってこと?」


 俺の質問にぎこちなくコクリと頷く呱々原さん。


「……き、今日。は、配信、なくて。……よ、良かったら、なんですけど。いや、あの、む

、無理なら全然」


 数秒の沈黙。

 俺は口を開く。 


「……えっと。じ、じゃあ、や、やりますか?」


 その日の放課後、興奮しながら猛ダッシュで家に帰った俺は、早速PCでドラハンをインストールした。

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