第3話 陰キャと陰キャ②
◇20:00~ 鳳凰院はかせの配信◇
「えへへ。最近嬉しい事があってさ~」
【コメント欄】
喜んでる声可愛い
急にどうした陰キャ
「ふっふっふー。もう陰キャじゃないんですよ~! 私最近ね、なんとなんと! リアルで自分から話しかけて友達を作っちゃったんですよ~! 凄くない? もうこれは陽キャでしょ!? 逆にこれまでがね、ビジネス陰キャだったって訳ですよ~! えへへ」
■■■
「クソ調子に乗ってて草」
その夜、自室で鳳凰院はかせのリアルタイム配信を見ながら、俺はそんな事を呟いて笑った。
ちょっと前までトークデッキがどうの言ってたのに、少し上手くいった途端にこの盛大な掌返しである。
面白いし可愛いから好きなんだけどね。たまには呱々原さんの様な謙虚さを見習ってほしいものだ。
俺は彼女との先日の出来事を思い出す。
『……あの、わ、私、槙島君と、仲良く、なりたい、……です!』
彼女の命を削った決死の告白によって、何故か俺達は友達になった。
雰囲気的に「頼ってって言ったのは業務の事なんだけど」とは口が裂けても言えなかった。
この言葉は墓場に持って行こう。
にしても、凄く可愛かったな呱々原さん。
小説風に表現するなら、その顔つきは幼さを残しつつ、小さな鼻やふっくらとした頬はより一層可愛さを引き立てていて、瞳は丸々と大きく漆黒の宝石のように澄んでいて、ピンク色のふっくらとした唇は見るもの全てを魅惑するようで。とかだろうか。
何だろう良く分かんねえ。とにかくなんか人形みたいだった。
あ、やべえ今日も小説書けてねえじゃん。もういいや明日頑張ろう。
そんな事を考えていると、はかせの配信が終わり、少ししてスマホからピコっと音が鳴った。
〇INEの通知。呱々原さんからである。
呱々原『槙島君。こんばんわ』
可愛い女子からの夜遅くの〇INE。それだけで心が若干弾んでしまったり。
彼女にはこの時間帯に起きてることは伝えている。
槙島『呱々原さんこんばんわ~!』
呱々原『今日も色々ありがとうございました』
槙島『ううん。俺の方こそありがとう! 助かったよ』
呱々原『いえ。明日もよろしくお願い致します』
槙島『こちらこそよろしくね! おやすみ!』
呱々原『お休みなさい』
お堅いやり取りだけど、最初はこんなもんで良いのかな。
何だろう。浅いやり取りだけなのに毎回向こうから送ってこられると、俺の事好きなの? って勘違いしそうになるんだけど。
それにしても、呱々原さんって友達が欲しかったんだな。
不意を突くような呱々原さんの友達打診と美少女面でフリーズしていた俺と〇INE交換をした彼女は、
「……一件、増えた。……うぇへ」
と、一桁台の〇INEの友達件数を見て口元を綻ばせていた。
取り付く島がないと思ってたけど、意外と陸地があるっぽい。
加えてあの容姿と、邪気のない内面のひたむきさ。
本当の彼女を知れば、男女ともに放っておかないと思う。
クラスメイトに言い寄られて泡を吹いて倒れる呱々原さんを想像しながら、俺はそんな事を思った。
■■■
その翌日の学校の昼休み。
教室で昼食を取った後、いつものように俺と呱々原さんで図書室のカウンターに座って受付待機をする。
関係性が深まればよりその人の内面が見えてくる。
そう感じずにはいられないこの時間。
というのも__、
「すぅぅぅぅぅぅぅ、……ま、槙島君さ。さ、さっきのお昼、……何、食べてたの?」
何と呱々原さんから話しかけて来ることが増えたのだ。
手をモジモジさせる彼女。
「……ご、ごめんなさい。何でもないです。調子に乗りました」
俺が返事に遅れたせいで、呱々原さんが前言を撤回してしまう。
俺は慌てて誤解を解いて、彼女に返事をする。
「お、俺はアレだよ! マスバーガー! 学校に来る途中で買ってきたんだ」
「……あ、そ、そうなんだ。……良いよね、マス。 ……お、美味しいよね」
「うん。美味しいよね! なんかマス特有の仄かな甘みが俺は好きでさ! え、呱々原さんもマス食べるの?」
「……あ、あんまり」
あんまりだった。
全然同調する流れじゃなかった。
次にどうやって会話を繋げようか考えていると、呱々原さんが言葉を続ける。
「……ト、トマトさ、分厚いよね」
「あー確かに! メックとかと比べると、結構分厚いかもね」
「……パンも、分厚いよね」
「ん? うん! そうだね! あの厚みが俺結構好きなんだよねー」
「……そ、そうなんだ。……ハンバーグも、分厚いよね」
「……そうだね!」
すげえ具材の分厚さについて言ってくるな呱々原さん。
俺も大概だけど、彼女はより会話が苦手なのだろう。
それでも、友達になってからこうして一生懸命に話しかけてくれて、それが凄く嬉しかった。
常に取り組む物事にひたむきな彼女の姿勢。その姿に尊敬したり反省したり。
臆している場合じゃない。俺からももっと話しかけよう。
俺より臆病な呱々原さんが歩み寄ってくれてるのだから。
ほぐれる彼女への緊張感。
「俺、呱々原さんの趣味とか聞きたいな」
「え、あ、……し、趣味?」
「うん。そう。何が好きなのかなーって」
俺の言葉に言い淀む呱々原さん。
自分の趣味を話すことに抵抗があるのだろうか。
その気持ちはオタク趣味を持つ俺には凄くよく分かった。
なので、呱々原さんが抵抗なく自分の趣味を話せるように、まずは俺から自己開示してみる事に。
「俺はさ、ぶっちゃけアニメとか漫画とかが好きなんだよね。クソオタだからさ。あんまり人に言うの恥ずかしいんだけど。呱々原さんはそういうの興味あったりする?」
俺がそう質問すると、呱々原さんは、
「……あ、あるよ」
とぼそりとそう言った。
「へえー! そうなんだ! え、例えば?」
「……えっと」
「大丈夫だよ! 俺結構マイナーなのも知ってるからさ! はは」
「……わ、私は、『タイドラ』とか、『ジミカノ』とか」
「へー! 俺も好きだよ!」
「!?」
「アニメ勢? 原作勢?」
「ど、どっちも」
どちらもアニメ化してオタク界隈を一斉風靡したラブコメ作品で、原作ライトノベルのシリーズ累計発行部数は三百万部を超える大ヒット作である。
呱々原さんが知ってたとは驚きだ。
「え、誰が好きなの!?」
「と、トラ、かな」
「分かる!トラめっちゃかわいいよね! ツンとしてるけどホントはドラの事を大切に思っててさ!」
「う、うん」
呱々原さんと共通の話題が見つかったのは嬉しいけど、アニオタ仲間だったのはもっと嬉しかった。
そんな感じで共通の話題を見つけて俺から積極的に話しかける事も増えていった。
「呱々原さんは最近の深夜アニメとか抑えてる?」
「い、一応観てるよ」
「へぇ! 何観てるの?」
「えっと、埋葬のグリーレンとか」
「あー! 俺まだ観れて無いんだよね。面白い?」
「お、面白いよ」
次第に呱々原さんの声量が大きくなったり喋り方が少しずつ改善されていく中で、
「あのー、この本借りても良いですか?」
「……っ!? !!!!!!!!?????????」
いまだにその他の生徒には引っ込み思案になったり。
その分俺に対しては信用してくれてるのかなと嬉しくなる日々の中、
事件は起こった。
「ところで呱々原さんってさ、Vチューバーとか知ってる?」
「!?」
俺がある時ふとそう尋ねると、急に若干挙動不審になる呱々原さん。
いやいつもの事か。
「……し、知ってるよ。み、観るのはあんまり、ででですます」
「あー、そうなんだね。俺さ、鳳凰院はかせってVチューバー良く見るんだけどさ」
「っ!!!???」
俺の発言にビクッとして頬に汗を流す呱々原さん。
Vチューバーは詳しくないけど、はかせの事は知ってるのかな?
そう言えば、二人って声がどことなく似てる気がする。
「呱々原さんははかせ知ってるの?」
「……し、し、知らないですそんな変な人。……う、生まれて初めて聞きました。です」
「そ、そっか」
まあ、呱々原さんがわざわざはかせの配信を観る所なんて想像出来ないか。
「いや、俺が凄い大好きだって話がしたかったんだけどさ」
「っっ!!!!!!!!??????????」
俺の発言に何故か突然驚いた呱々原さんが、いつも業務メモを取っているノートを手元から落としてしまった。
落下したノートは地面に衝突し、あるページをめくったまま着地する。
『鳳凰院はかせ 今週末の企画案』
「ん?」
「っっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????????????????????????????」
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