第90話

「金髪…」手すりを持ちゆっくりと立ち上がる。震える足で窓際による。





そこからは別館の屋上が見えた。





別館の屋上はフェンスで囲われているが、開放されているらしく、何人か人が見えた。





それを見てまた頭を殴られたような痛みが走った。







「………せっかく死ぬなら、私を殺してよ。私を殺してから死んで。」






私は昔、確かにそう言った。






それは誰に言ったのか思い出せない。





痛む頭を押さえながら、「金髪…青色の瞳……本……屋上…」と、鍵になりそうな言葉を呟いた。





「藤岡………りゅう…」





その場に座り込んでいる私に誰かが駆け寄ってきた。






「みなみ、どうしたんだ?こんなとこで。」





「…優馬……さん?」声のする方を見て尋ねる。





「そうだよ。」彼はそう答えた。






「りゅうに会いたい……彼が…誰かわからないけど、大切な人な気がするの。特別な…。そんな気がするの。」そう呟いて彼の方を見た。





そういうと、彼は「少し待ってて。」と言い、車椅子を持ってくると私を抱き上げて乗せてくれた。





そのまま、車椅子を押し、ある部屋の前まできた。





優馬さんはノックをすると「はい。」と聞こえ、さっきの女の人が出てきた。





「ごめんね、会わせるのはもう少し後になると思っていたんだけど…みなみが会いたいって言ったから連れてきてしまった。」優馬さんがそう言うと、「私も別れを告げてきたので…親に…婚約の破棄について、話してきます。それじゃあ…」そう言ってすれ違うように病室から出て行ってしまった。





彼は軽く会釈をすると、病室へ入った。






「彼が、りゅうさんだよ。」




黒い髪が少し伸び、頭皮から金髪が見える。





眠っているようでいくつかの機械や点滴で繋がれている。






「彼は…」私はゆっくりと彼の手に触れた。






「殺人未遂の被害者だよ。そして、君にとって1番大切な人だ。」





その瞬間全てを思い出した。




彼との数ヶ月を。




高校での日々を。





そして、殺人未遂の件は私のせいであることを。

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