第84話

自分は関係ないこと。ずっとそう思っていたが、話が変わったのはそれから半年くらい経ってからだった。





兄が倒れた。





と言っても、これは内密にされた。たまたま、用事があり兄の家に行ったところ彼が倒れていて、病院に行った。



そこには俺の知らないかかりつけ医がいた。




少し嫌な予感がした。





目が覚めた兄に「もしかして、だいぶ悪いの?」と聞くと、困ったように笑った。





「ばれたか…言わないつもりだったんだけどな…」兄は前に見た時よりも細くなっていた。





彼は心臓の病気だったらしい。






彼はしばらく目を瞑り何かを考えているようだった。そして口を開いた。





「長くてもあと10年だと、言われている。俺が死んだら、優馬が会社を継ぐことになると思う。」予想はできていた。





兄がいたから大分わがままを言い、デザインの勉強をしていてもそこまで何かを言われることはなかった。今では評価されるようにもなってきてきた。




しかし、兄が死んだら話は別だ。会社を継がなければいけない。






「うん、そうだな…」俺がそう答えると兄は「願いを一つ叶えてくれないか?そうしたら、優馬は会社を継がなくてもいいようにしよう。」兄がそう言った。





「…は?」そんなことできるはずがない。そう思った。






「婚約者のみなみさんと、結婚してほしい。そして、その時が来たら………離婚をしてやってほしい。」そう言われた。





意味が分からない。そんなこと…




「婚約破棄をしたら、きっと彼女は金の為に他の男の元へ嫁がされるだろう。でも、俺はいつ死ぬか分からない。」




「そこまで、気にしてやる義務はないだろ?」そう聞くと「助けてもらったんだ。彼女は覚えていないけど。」彼があまりにも穏やかに笑うものだから少し拍子抜けした。





それ以上はなんとなく聞けなくて、でも、何年か経てば別れられるし、今の仕事を続けることができると言うメリットがあることからその願いを引き受けた。

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