第79話

「……貴方は…誰?」私が尋ねると大きく呼吸をしながら彼女は自分の手を強く握り締め「藤岡…隆さんの…婚約者です。」と言った。




妹に一度聞かれた名前だった。





「何で…!何で貴方の目が覚めて…彼の目は覚めないの!何でよ…」彼女は座り込んでまた泣いた。






「すみません、彼女は何も覚えていないんです…彼のことも。彼女は事件のことを何も知らないんです。」優馬さんがそう言うと





「記憶が…?なんで…なんでよ…」彼女がそう言うと、看護師さんが来て彼女を部屋から連れ出して行ってくれた。





「事件って…?殺人未遂のこと……?私と何の関係が…?」そう聞くと彼はベッドに腰掛けた。






「君は…数ヶ月間ずっと高校の同級生である藤岡隆さんと行動を共にしていたんだ。彼を刺したのは君の愛人。」






意味がわからなかった。




優馬さんという夫がいながら、数ヶ月間他の男性と共に行動をし、愛人までいたなんて。





「え…うそ……」彼を見つめると「僕たちの関係は複雑すぎたんだ…その関係は君を追い詰めた。君が望むようにするよ。君の中で整理がつき、その時が来たら…」彼はそう言った。






また扉が開いた。「どういうこと?藤岡隆さんの婚約者がまりあだったなんて…」





「はなちゃんの、知り合いだったの?」彼がそう聞くと妹は頷いた。




「まりあの夢だったんだよ…彼のお嫁さんになることが……なのに………お姉ちゃんは、そんな彼を奪い、お姉ちゃんのせいで彼は今も目を覚さないなんて…最低だよ!」彼女はそう言って怒鳴った。




「なんで……優馬さんという優しい旦那さんがいながらそんなことをしたの?何の不満があったの?」泣く妹に何も言えずにいると優馬さんが「みなみは覚えていないんだ。一度落ち着こうか。」そう言って2人で部屋を出て行った。






私はそれでも何も思い出せなかった。

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