第65話

「残念ですか?」そう聞かれて彼を見た。「なんで?」私が聞き返すと「君はそのタバコに思い入れがあるようだったから。」彼はそう言った。





「ないよ。そんなもの。」私はそう言うとタバコの火を消した。「ありがとね、おじさん。火くれて。」私はそう言うと彼に背を向けて人通りのない場所は向かい歩き始めた。





「新しい人生を始めるには、ちょうどいいタイミングかもしれないね。」さっきの男性がそう言ってきて私は振り向いた。「……え?」





潮風が強く吹いた。




見覚えのない彼は微笑んでいる。






「やっぱり覚えてないか。」彼は何か知っている。「あんた、誰?」私は彼を見つめた。






「結婚式でも会ってるんだけどなぁ…まぁ、仕方ないかぁ…」彼は笑ってそう言う。






「あなたのことなんて知らないけど。」そう言い返すと「それはそうさ、君は誰の顔も覚えていないだろ?」彼は私のことを見透かすように笑う。





「……は?」私は彼の目を見つめた。





「思い出してごらん、妹や両親、旦那、あぁ…隆さん。大切な人だろう?」「そんなの…わかるに……!!……」





あれ……はなって…どんな顔だっけ…お母さんと…お父さんって………あれ…





「そうよ、りゅうの目は…深い青で、色素の薄い髪色。ほら、覚えているでしょ?デタラメ言わないで。」

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