声
第62話
強く風が吹き、帽子が飛ばないように抑えた。
ここがどこなのかいまいちわからない。何も考えずに歩いてきたからだろう。
歩き疲れてベンチに座るとまた風が強く吹いた。
その風は頬を撫でるような風だった。何故か彼の顔を思い出した。
「あいしてる」そう聞こえた気がして振り返る。そこには誰もいなくて「そうだよね…」と呟いた。
彼と別れてから適当に電車に乗り出来るだけ遠くに行った。
私はいつだって馬鹿みたいだ。
彼に再び会えて舞い上がっていたのだろうか。責任を取ることなんてできない。彼は本当はそんなこと求めていないのだから。
もう何も考えたくない。
そんなことを思っていても人間の体は不思議で喉が乾く。
自販機に近寄りお水を買おうと思い、電子マネーで払うために携帯を出した。携帯の電源はとっくの昔に切れていたようで少しも反応しなかった。
仕方なく財布を出し小銭を入れた。
お水を買うとそれを一気に飲んだ。
水が冷たかったせいか、少し頭が痛くなったような気がして目を細めた。
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