第9話

彼は私を見つめて「会いたかった。」そういった。





私はそんな彼を見つめて「私も。」と答えた。






彼は私に近づくと私の左手を取った。





薬指には指輪が光っている。「今、幸せ?」私にそう聞いていた。






「りゅうと同じだよ」私は指輪に触れてそう答えた。




彼は私の腕を引くとどこかへ向かった。最上階へ向かうと部屋に入った。





さすが最上階だ。あまりにも眺めが良くて、窓から景色を見た。





「あの屋上を思い出すよ。」私がそう言うと、彼は広いベッドに私を押し倒した。「今でも殺してほしい?」そう聞かれて「今でも死んでしまいたい?」そう聞き返した。






「みなみを殺さなかったこと、後悔してた。自分自身死ななかったことも。でも…先に死ぬなんてできなかった。」






「それでもあの時殺してくれなかったのはなんで?」何度も殺すタイミングはあった。それでも私は生きている。





「みなみが死にたい理由がわからなかったから。未来を潰すのが怖かった。でも、その考えは間違いだったね。」彼はそう言って微笑んだ。




あの時の私は、勉強だって運動だってなんだって頑張っていて、学校では名の知れた人物だった。





生徒会の会長もやっていて、みんなから信頼されていた。






「死にたかった理由って…これ?」指さされたのは指輪だ。嫌味なくらい高価なそれは薬指で主張をしている。





「そう。好きではない…会ったことすらない人との結婚が決まっていたの……未来なんて少しも想像出なかった。」





私が高2の時、高校を卒業したら結婚することを親に突然告げられた。彼は私より25も年上の男だった。親のしている会社の業績が傾いていて私が結婚して資金援助をしてもらうのが得策と考えたのだろう。




噂では、汚くて臭い男だと聞いていた。強制わいせつか何かで捕まったことがあるらしく、結婚する相手が居なかったところに相手として私が選ばれたらしい。





最悪だった。





でも、結婚しなければ働いている人は路頭に迷う。





そう考えるとその方法しかなかった。

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