ep.3 大型ホームセンター:株式会社デッドボディズエブリウェア①
バナナペンギンさんは、その軽快なリズムを刻みながら、宮崎市の青空の下に現れました。
「バナバナペンペンバナペンペン。おしりをペンペンバナペンペンスン。」
出張でこの地に降り立ったバナナペンギンさんは、まるで南国の太陽に呼ばれたかのようです。
心なしか、持っているバナナも笑っているように見えました。
南国の香りが漂う宮崎市は、緑豊かな自然と穏やかな空気が広がる美しい場所です。
車で進むと、田畑が連なる平野や、遠くに見える霧島山系の山々が、のんびりとした時間の流れを感じさせてくれます。
この景色の中、バナナペンギンさんが訪れた理由は、大型ホームセンター「デッドボディズエブリウェア」にありました。ここは、どんな商品でも揃うと評判の場所です。
デッドボディズエブリウェアの自動ドアが開くと、店内は明るく、商品が整然と並んでいました。
バナナペンギンさんはふと周囲を見回し、棚に並ぶ工具やガーデニング用品に目を奪われました。
その時、1人の従業員が忙しそうにカートを押して通りかかりました。
「すごい品揃えスン!」
バナナペンギンさんが声をかけると、その従業員の佐藤さんが苦笑いを浮かべました。
「まぁ、揃うことは揃いますけどね…」
佐藤さんの表情には疲労の色が濃く見えました。彼はそのまま、まるでジェットコースターのように先へと去って行きました。まるでお客さんからの質問を拒否しているようです。
バナナペンギンさんはバナチュッチュをしながら、その場を後にしました。
ちなみにバナチュッチュとは、バナナの先をチュウチュウなめるという意味です。
次に声をかけたのは、もう一人の従業員、中村さんでした。彼は大きな棚を組み立てている最中で、汗をぬぐいながら作業に没頭していました。
「これ、大変そうですね!」とバナナペンギンさんが明るく話しかけると、中村さんは息をつきながら答えました。
「ええ、まぁ。毎日こんな感じですよ。でも、これがうちのブラックぶりなんですよね。」
「ブラックスン?」バナナペンギンさんは首をかしげました。
中村さんは一瞬ためらったものの、やがて話し始めました。
「うち、商品数が半端なく多いんですよ。それに、在庫管理も全部手動でやらなきゃいけないんです。POSシステムがないから、品物の場所や在庫確認は全部僕たちが覚えておかなきゃならないんです。だから、毎日クタクタでさ。お客様に質問されても、即答できないと怒られるし…」
「それは大変スン。経営者の怠慢スン。」
バナナペンギンさんは驚きました。
「そうなんですよ。それに、品物の重さがまたひどいんです。重たいガーデニング用品や工具を棚の上に運ぶのは、体力的にも限界です。腰痛持ちの従業員が増えてます。でも、誰も気にしてくれないんです。」
その時、佐藤さんも話に加わりました。
「おまけに、早朝からの開店準備もありますよ。お客様にパンとコーヒーを無料で提供するサービスがあるんですけど、その準備を僕たちがやるんです。早番だと朝6時半には来なきゃならないんですよ。夜まで働いたら、もうヘトヘト。いつも12時間以上働いてる感じです。」
「給料はいいスン?」
バナナペンギンさんは心配そうに尋ねました。
「それが、給料はそんなに良くないんです。パートの人なんかは、業務量の割に時給が低すぎるって不満ばかりだし、セール時期はお客様対応に追われて休憩も取れないことが多いです。」と佐藤さんが答えました。
「確かに、キャリアパスも不透明ですしね。」と中村さんが続けます。「昇進の基準も曖昧ですし、長く働いていても何も変わらない。モチベーションを保つのが大変なんです。」
バナナペンギンさんは、従業員たちの話にあわせてリズミカルにおしりをふっています。
表面上は大きく立派なデッドボディズエブリウェアですが、その裏では従業員たちが過酷な労働環境に苦しんでいることが明らかでした。
店内の賑わいとは裏腹に、ここで働く人々の笑顔は少ないようです。
「せっくの南国なのに暗いのはもったいないスン。」
バナナペンギンさんは、そっと呟きました。
そのとき、大声がしました。
「俺は社長の同級生なんだぞ~!!」
後半へつづく――
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