第86話

「陽向ちゃん?」


雅の声は、まとも⋯、‘ノーマル’と言っていた時の声で。

ズキズキと、肩が無意識に傷んだ。

昨日の雅を思い出せば、体が震えていくのが分かる。



「1人?」


「は、はい⋯煌はさっき⋯出て行って⋯」


「煌に用事じゃないから、いいよ。 昨日は⋯本当にごめん。陽向ちゃんに謝りに来たんだ⋯。何もしないって言ったのに、ごめん」



本当に反省しているような声。



「今、本当に1人?」


「⋯あの⋯⋯」


「1人なら、逆に都合いいから。そのまま聞いてくれないかな」


「⋯え?」



聞く?何を?



「逃がしてあげる、ここから。昨日のお詫びっていうのはおかしいかもしれないけど⋯」



逃がしてあげる?

私を?

ここから⋯?

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