第85話

と、その時、―――コンコンと、目の前にある扉を誰かがノックする音が聞こえて。



誰かいる。目の前に。

扉の向こうに誰かが。


咄嗟に鍵をしめようと思ったけど、この扉には鍵は無かった。



「煌?俺だけど、いる?」



扉越しに聞こえる声には、聞き覚えがあった。

まともな人だと思ってた人。急に急変してしまった彼。


ここの建物の事を教えてくれた人で。


―――雅⋯



「煌?」



もう一度、ノック音。



「⋯い、いま、いません⋯」



私はそう口にしていた。

その理由はここを開けられたくなかったから。

この扉を開けて欲しく無かったから。

煌がいないと分かれば、開けないと思ったから。

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