第72話

まるで、殴り合いでも起きそうな雰囲気だった。オドオドと、どうすることも出来ない私は、ただ黙っているだけで。



「陽向」


ふと、仁に見つめられ、私を引き寄せてきて。漆黒の瞳が私を貫く。

まただ⋯、この目から、視線がずらせない。



「続きはまた今度な」



頬にキスをしてきた仁は、そのまま私から離れた。この部屋から出ていくらしい仁。



「まあ、飽きるころにはもう俺から離れられなくなってると思うけどな」


不機嫌に呟いた煌⋯。



「なめるな、すぐに落としてやる」



その挑発に、仁は言い返すと、煌の横を通り部屋から出ていき。


「はぁあ」と深くため息をついた煌は、私に近づいてきて、さっきまで仁が座っていた場所にギシ⋯と、腰をおろした。



蛇のように見つめれる鋭い視線。

私は怖くて、体を隠していた布団をぎゅっと握りしめた。

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