第70話

「じ、んさ⋯」


イヤと言えば、また首を締められるかもしれないって思った。人格が違いすぎるとはいえ、首を締めてきたことには変わらない。



「そう、いい子だ、じっとしてろ⋯」



仁の手のひらが、私の頬を包む。

それはまるで、甘い蜜に引き寄せられるようだった。

仁と唇が重なりかけた時、突然開かれた扉の音にビクっとして、ハッと意識を取り戻した私は顔を仁から背けた。


それども、私が拒否することを分かっていたらしい仁の唇が、私を追い。



柔らかいその唇が重なった時、ドクン⋯と、胸の鼓動が高まった。



「おいコラてめぇ、人の部屋でやろうとしてんじゃねぇよ」



しっとりと、唇を離した仁。

仁は名残りおしそうに私の頬から手を遠のけ、中へ入ってきた人物に、鋭い視線を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る