第63話

耳元に近いせいか、ジュクジュクと音がしてくる。

傷口に舌を差し込まれるその痛みは、昨日煌が与えてくれた痛みよりも酷く。


痛みが快感なんて、それさえも忘れてしまうほど、痛みが私の肩を貫く。



聞こえてくる乱れた雅の息遣い⋯。

狂ったように、血を飲む男⋯。



「だ、れか⋯ッ⋯」



雅があの時、「逃げろ」と言った意味が分かった気がした。こうなる事を、本人は分かっていたから。

まるで吸血鬼のように、お構い無しに血を飲み干してしまうことを。



ハァハァ⋯と、ようやく舌を離してくれた雅は、またガラスの破片を手に取ると、さっきとか違う位置に、傷をつけていく。



嘘⋯っ、またっ⋯



「いや、いやっ、やぁあああ―――⋯」



痛みと、血が失われていっているからか。もうフラフラする頭の思考がままならないほど、体を動かす力は残っていなかった。

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