第58話

さっきまで逃げないとって思ったのに。私は掃除をするために散らばってたグラスに触れようとした。



「さわるなっ!」



その瞬間、雅は大きな声を出し、グラスに触れようとした手首を掴んできて。


けど、その手首の方は、痛めている手首の方で。昨日、散々煌に痛めつけられた手首。


「痛いっ」と雅の手から逃れるために雅の体を押す。痛みが起こった瞬間、思い出したのは煌の顔だった。

体から汗がにじみ出る。



「わ、悪い⋯」



手首を痛めていることを知っている雅は、眉下げ謝罪をしてきて。



「だ、大丈夫ですから⋯」


私は痛む手首を見つめた。


痛みで感じてしまう体を作ろうとしている煌。



「つか、そこ、手当てしてなかったな、手当てすっか⋯」



雅がそう言ったその時だった。突然、雅が私の痛めている方の指元を、痛いぐらいに掴んできて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る