第10話

璃久は興味無さそうにソファへ寝転ぶと、「俺これ読んだら寝るから、廻すなら外でしろよ」と、漫画を手に持ち当たり前のように言ってきて。



「はいはい。えーっと、名前なんだっけ?」


腕を伸ばした世那は、私の顔を挟むように片手で掴むと、無理矢理視線を重ねられる。


こんな男に、教える名前なんてない。

絶対教えてやるもんか。

なんて思ってたのに、「教えてくれたらやめるの考えてあげてもいいよ?」って、言ってくるもんだから。

つい数秒前まで決心していたことが、一瞬で揺らいだ。



「っ、さ、もと⋯、」


痛みが収まるのならばと、簡単に自分の名前を言えてしまう愚かさ。



「さもと?」



違う―――



「ささ、もとっ⋯!」


「笹本?」



ピタと、名前を教えれば本当に動きを止めてくれた世那は、私の名字を繰り返して言う。

けど、その顔にさっきまでのニコニコとした表情はなく。

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