第61話

「……はい」


「……出るの遅い」



田中くんの声。


いつもと変わらず低い落ち着いた声。



「何か用……?」


「他人事みたいで傷つくな」



その割に声は明るかった。


まあ、他人だもん。



「用があるから電話してきたんだよね?用がないなら切るよ?」


「こないだ、キーホルダー忘れなかった?」



キーホルダー。



「桜のキーホルダー。一ノ瀬のだよね?俺があげたやつまだ持ってたんだ」



田中くんに気持ちを見透かされたみたいで恥ずかしかった。


下心入りのキーホルダー。


長い間気持ちを引きずっていなければ未だに持ってるはずがない。



「デザインが可愛いから……」

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