第44話

動揺と緊張で階段にヒールが引っかかり階段から落ちそうになる。



「きゃ………!?」



「一ノ瀬……!」



田中くんがとっさに私の腕を掴み抱きしめる。


私を助けた弾みにカバンは落ちて書類が散らばる。



「びっくりした~気をつけろよ」



一瞬だけ素の田中に戻った気がした。



「ごめん………」



こんなことで簡単にドキッとするなんて。




エレベーターに乗り込む無言が続く。



「……で、なんでさっき逸らしたの」


「えっ」



先に沈黙を破ったのは田中くんだった。



「俺が自己紹介したとき」


「……ごめん。ただ、びっくりして」


「そんなことか〜こないだの飲みで嫌われるようなことしたのかと思ったじゃん」



無邪気な笑顔で顔を覗き込む。

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